第7話:『デモってなんだ!!主題歌に込められた想い』
「デモテープ」とは?
制作途上の音源を収録したメディアのこと、「デモテープ」と言うことが多い。
「デモ」は「デモンストレーション」の略。
と、今さっきググったら出てきました。
当時「サイバーフォーミュラSAGA」のBGM作業と合わせて、音楽プロデューサーの藤田さんが、「主題歌のデモを用意するので、少し待ってくださいね」。
と言ってきました。
わたしは、音楽業界にある「デモ」の意味を知りませんでした。
一方、藤田さんは、数名の作曲家さんに「主題歌」の曲を発注します。
イメージを伝えたり、資料を送ったり、打ち合わせなどのやり取りをします。
作曲家さんたちは、資料にある「サイバーフォーミュラSAGA」のキャラクターを読み勉強します。ストーリーを読んだり、過去の映像を観たりしてイメージを膨らませます。
そして、「サイバーフォーミュラ」に似合うスピーディーでドラマちっくなメロディ(曲)を書いたとします。
それを、何らかの楽器、多くはシンセサイザーを使ったり、あるいはギターだったり、鍵盤楽器だったりを使用して荒いですが、ハーフサイズ(90~100秒)の曲に仕上げます。
その時はまだ歌詞はないので、メロディ部分を仮に自分の声で「ららら~」と声を入れる作曲家さんもいます。あるいは、それっぽい仮の歌詞で歌ってしまう作曲家さんもいます。
出来上がった音源「デモ」を当時はカセットテープに録音し「デモテープ」となって、我々の手元に届くこととなるのです。
そこで、初めて「デモテープ」の意味を理解しました。
いまなら、MP3データがメールなどで届くのですが、当時は、インターネットはまだ普及していないし、メールのやり取りも始まる少し手前の時代でした。
いまは、テープでなくデータですので「デモデータ」なんて言うのかしら?いや、これは聞いたことがないです。となると、メディアにあたる部分はなしで「デモ」を送るね、などのやり取りのような気もします。
当時はアナログのカセットテープに、主題歌候補のメロディ(曲)がわかる音源「デモ」が数曲入っているのです。それを聞いて、どれがオープニング主題歌に合うのか?どれが、エンディング主題歌に合うのか?を決めます。また、どこそこの部分のメロディ、サビを直して欲しいとお願いすることもあります。
数年前(クロスアンジュの頃)から、パソコンで作った曲にボカロの声が入っている「デモ」が来ることが多いです。時代の変化が感じられます。
「サイバーフォーミュラSAGA」の主題歌について、色々書きたいと思います。
音楽プロデューサーの藤田さん、福田監督、わたしで主題歌について打ち合わせをしました。まずは、福田さんのイメージを聞きます。BGM同様、少し大人っぽい歌が欲しいことは理解しました。
ここで、福田さんの想いと言うか、考えを深く聞きます。
アニメのヒットに導くひとつとして、耳に残るオープニング主題歌がもらえるのか?が大きいファクターだと言うのです。
主題歌の出来上がりが、作品自体のヒットに大きく起因すると声を大にして言われたことで、ハードルをガツンと上げられました。
打ち合わせ後、藤田さんと作戦会議タイム。
ふたりで顔を見合わせた記憶があります。
と言うことで、藤田さんとは色々話し合いました。
藤田さんは岩手県出身でした。わたしが、青森県出身なので、場所が近いです。同じ東北地方出身で太平洋側なのとウルトラマンなど特撮も好きで、何かしら共通するものがあるからなのか?初めて会った気がしませんでした。
また、藤田さんのヘアスタイル、いえ、ヘアカラーが個性的で会うたびごとに赤になったり青になったりしました。いまなら、街を歩くと派手なヘアカラーの若者が闊歩していますので気になりませんが、当時ですので、とても個性的でした。
ちなみに、藤田さんの新人時代はコロンビアレコードで、「アニメ音楽道」を歩いている方でした。さらに、「ウルトラマンガイア」のBGM、エンディング主題歌のプロデューサーも担当していました。
わたしは、佐橋さんが作曲したBGMにあったように、音楽でもレースをしていると言うのが、とても気にいっておりまして、ならばオープニング主題歌もレースをしたい!でした。
福田さんからも、当時流行っていたユーロビート系のダンスミュージックでテンポの早い感じで攻めてみたいね!と言う話題が出ていました。
そして、数曲のデモが上がってきました。そこから、福田さん、わたしが聞いてセレクトしました。それが、「Identity Crisis」になります。
疾走感のある曲で、マイナーメロが物語のドラマチックさを強調します。
リズムの音がエンジンのピストンの音のようでもあり、また心臓の鼓動のようで生きていると言うのが伝わる気がするのです。
そして、タイトル「Identity Crisis」の日本語の意味が「自己探求を続ける青年が経験する自己喪失の状態」を言うようです。
自分は何なのか?と、自分の存在意義が明確になっていく様とのことです。
「性(さが)」を背負った若者たちが自分は何者で存在意義を求めるって、それこそ、「サイバーフォーミュラSAGA」のテーマのひとつだった気がします。
詩のなかに、「囁きが聞こえる 深い闇の向こう おまえは誰なのか?」とありますので、ある意味自分探し、永遠のテーマですよね。
実は、作詞家さんと福田監督、わたしは直接に会って打ち合わせをしていないのです。
シナリオを読んでもらって、あとは藤田さんがオーダーを出して書いてもらっているのです。
作詞家さんは、企画書やシナリオにある本質(テーマ、コンセプト)を抜き出して、文章を紡ぐのがとても上手なんだと思います。
エンディング主題歌「WILD at HEART」の詩のなか、「求めている答えは何処に潜んでる、大人たちは何も教えてくれはしない」とあります。これって、オープニング主題歌へのひとつの受けになっている気がします。
第4巻エンディング「Believe」は、女性の視点で書いた作詞になっています。
冒頭「そばにいても離れていてもどこにいてもずっと、あなたのこと思っている私がいるからいつも感じてて」と、これは、あすかがハヤトに対しての想いですよね。
「Believe」は、ハヤトの焦りをとなりで見ているあすかの気持ちが代弁されているかなと思います。この時に、藤田さんが仕掛けていることを見て、アニメ本編以外で歌や音楽関係などで、ドラマの持つテーマだったりメッセージを伝える手段があることを知ります。
オープニング主題歌、エンディング主題歌、挿入歌、予告、CMなど世の中に出るものに、自分たち作り手からの何らかの想いを載せることは重要だと感じたのです。以降、どの作品でも、何かしらのかたちで常にお客さん、視聴者、ファンの皆さまに情報を発信して行くことを手掛けました。
当時、オープニング主題歌などの収録に立ち会えました。
ここでもまた、初めて見る、知ることばかりなのです。
わたしは、アフレコスタジオしか知りませんので、歌の収録スタジオに行くのは初めてであり、収録に立ち会うことも初めてです。
ボーカリストのCaYOCOさんに挨拶をして、軽く新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGAの説明をして、収録になります。
最初にマイクテストが行われます。
ディレクターは、音楽プロデューサーの藤田さんです。
他に、エンジニア、助手さんがいます。
本番になり、藤田さんから指示が行きます。何度か歌うことで喉も良い感じに暖まってきたのか声に艶が乗ってきます。
フルサイズでは10回くらい歌ったでしょうか?
以降は、どうしても気になる箇所を歌い直してもらいます。トータル1時間半くらいかかったような記憶があります。
何度も何度も歌うと、喉も疲れてくるし、声質も少し変わってきたりします。
プロのボーカリストは、その声の変化が少ないですね。
「サイバーフォーミュラSIN」の影山(ヒロノブ)さんは、何回歌っても声が変わらないと思いました。
「星方天使エンジェルリンクス(以下、エンジェルリンクス)」のエンディング主題歌は小学生に歌ってもらったので、これは、数回の歌唱で終わらせないといけないと藤田さんが判断してとにかくスピーディーに進めました。
理由として、子供は集中力が早く切れるので、切れる前に終わらせるので素早い収録でした。さらに数回しか歌わせないことで声が変わらない、などなど。
ディレクションの他に知っておくことがたくさんあるのだと、感心しました。
この「エンジェルリンクス」も、藤田さんがディレクターをやりました。
ふと、思い出すことがあります。
一度だけ、何かの舞台でCaYOCOさんが生歌を披露したことがあります。
主題歌の「Identity Crisis」を歌いました。
CD収録のときのように何度も歌い直すことが出来ない、ライブ!
カラオケが流れて、CaYOCOさんが歌い始めます。
とんでもない声量。
テンポの早い曲ですが、めちゃカッコ良く歌うのです。
前に収録スタジオで聞いていましたし、CDも聴いています。
でもライブにはライブの良さがあって、やはり素敵なのです。
このライブが、いつ、どこでやったのか?完全に忘れているのです。とほほ。
そして、いつかライブで「サイバーフォーミュラシリーズ」の歌の数々から……。
「SAGA」や「SIN」の歌をファンの皆さんに聴いてもらいたいと思ったのですが、まだやれていないのが残念です。
追伸:
YOUTUBE「ふるさとPアニメ道」もスタートしましたので、ぜひぜひチャンネル登録の上、ご覧くださいませ。
🔻リンクはこちら
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🔻ふるさとP写真録:今週の一枚
古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。
1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』アソシエイトプロデューサーとして参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。
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