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Article: 第11話:『サイバーSAGA第1巻の発売です!!~晴海のコミケと孫氏の兵法?』

第11話:『サイバーSAGA第1巻の発売です!!~晴海のコミケと孫氏の兵法?』

日々、奔走しているうちに、ついにOVA「新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA」の第1巻の発売が近づいてきます。

当時は、「VHSソフト」と「レーザーディスク(LD)」の発売でした。

そうなのです。2024年現在ある「DVD」も「ブルーレイ(BD)」も「配信」もありません。

 

そして、「サイバーフォーミュラSAGA」の売上枚数の内訳として、「VHS」テープが多かったのです。

当時のアニメマニア用のタイトルのOVA作品の販売状況は「LD」が多いのですが、「サイバーフォーミュラ」は違うのです。

 

※パイオニアのレーザーディスクプレーヤーの使用するメディアのことを通常「LD」と言いました。VHSテープに比べると画質が良いのですが、円盤が大きいのが特徴。

※VHSとは、ビクターが作った規格に準ずる録画再生の機械(デッキ)のこと。パナソニックや日立なども採用しワールドワイドに展開していた。また、ソニーはべーマックスと言う規格の録画再生の機械(デッキ)があり、こちらは後にプロ用の機材になっていく。

 

 

理由のひとつとして、購買層の男女比にあると言われていました。

女性ファンが多い作品は、「VHS」テープの本数が多くなるのです。

それは、女性は当時普及しているVHSデッキを持っているが、レーザーディスクプレーヤーはマニア向けなので持っていないと言われていました。

 

バップさんに、「11」、「ZERO」の巻当りの本数などを聞きました。

そして、男女比も聞きますと、「11」は『8(女性):2(男性)』、「ZERO」は『7(女性):3(男性)』のようです。

しっかり、女性人気に支えられている作品です。

ありがたいことです。

 

ただ、少しずつ、男女比が変わっていることに、わたしは着目しました。

「SAGA」は、作品の持つドラマなどのテイストが変わっていることからも、男性ファンが増えるのかも知れないと予感していました。

そこで、アオシマさんが「サイバーフォーミュラシリーズ」の車をモチーフにして、ミニ四駆のようなホビー「テクノ四駆」を発売したいと来ましたので、これは、とても良い流れに感じました。そのときのアオシマとのお付き合いから、後のプラモデル化につながるのです。

 

「SAGA」の第1巻の予約が始まり、最初の生産数が決まります。

予想通りで、『6(女性):4(男性)』と男女比が変わっていました。

TVシリーズは、男児玩具連動型のアニメでしたので、男児がメインターゲットです。

放送が終わってから「SAGA」時は、すでに5~6年経っていましたので、男児も少年から青年になっているので戻って来たのかしら?とも考えました。

 

実際、20代男性の声もわたしの耳に聞こえてきていました。

そうなのです。男性ファンの感想があちらこちらから聞こえてくるのです。

 

「昔から見ていて応援している」と言う声が多いのです。

 

戻ってきているのではなく、残っているのかも、と思いました。

色々調べていくと、年数が経っているので、女性ファンが抜け落ちていることは分かりました。それを補うように男性ファンが減らずに残っているように見えました。

 

女性ファンが減り、残った男性ファンが顕在化して、ちょっと目立って来たのかも知れません。色々理由を探しながら、男性ファンが好む商品作りをやっても良いのかも知れないと考えました。上に書いたような、プラモデルの展開、さらに近い将来にやることになるゲーム化、などです。

 

女性ファンに向けては、従来通りに真摯に商品化をがんばります。

そこにムービックさんから商品企画が来ます。これらは、アニメイト店に並びます。

ここで登場するのが、前の回で書いたムービックの担当萩原さんです。萩原さんの持つデータ(どんな商品が誰に訴求し買ってもらえるのか?)と勘(わたしは、この勘はとても重要だと思っています)を信じて動きます。

 

ムック本の企画も来るのですが、これらも、物語、描き下ろしイラストを中心にするのではなく、マシンやレースレギュレーションを中心にしたものになっていきました。

正直、すでに何冊も何種類ものムック本が発売されてきたので、少し色合いを変えないと、購買者、お客さんが飽きると言うのもあります。

 

少し時間を遡りますが、「サイバーフォーミュラ」の担当プロデューサーになった1995年冬コミ、晴海で開催した最後のコミケに行きました。

「サイバーフォーミュラ」の同人誌コーナーをみつけるために、あちらこちらを歩きました。

 

外は、「美少女戦士セーラームーン」のコスプレの方々が闊歩していました。

そうなのです、通路など普通に歩いていたのです。

「ガンダムW」のヒイロやディオもたくさんいました。

「うる星やつら」のラムのコスプレもいました。さらに、テンちゃんのコスプレした赤ちゃんを連れているラムちゃんもいました。

「ファイブスター物語」のコスプレも勢揃いしていました。

わたしは、コミケは初めて行ったので見るものが物珍しく、アニメファンの熱量に驚いたものです。

 

ブース内では「新世紀エヴァンゲリオン(以下、エヴェンゲリオン)」、「新機動戦記ガンダムW(以下、ガンダムW)」の同人誌コーナーがめちゃくちゃ混んでいました。

近くを通れないほどの混み方でした。兎にも角にも迂回して遠回りしてサイバーのブースに行かないとなりません。気を抜くと人の波に流されてしまいます。

 

紆余曲折、やっと「サイバーフォーミュラ」の同人誌ブースを見つけることが出来ました。

 

わたしは、どんな同人誌があるのか?を見るためにウロウロしました。

正直、男性のお客さんはわたししかいないのです。そのためなのか?売り子の方々はウエルカムモードで優しかった気がします。あ、でも、単に物珍しいので相手してくれたのかも(笑)。数冊同人誌を買いました。

 

そして、次にわたしがやったことは、同人誌を売っている売り子、お客さんが見えるくらいの場所で1時間くらい立って見ていました。

かなり、不審者だったと思います。

わたしとしては、お客さんの顔を見たかったのです。

性別、年齢、どんなファッション、ひとりで来ているのか?数名で来ているのか?同人誌を何冊買うものなのか?などなど、わたしなりにデータ化したかったのです。

 

孫子の言う【彼を知り己を知れば、百戦して殆うからず】。

いわゆる孫子の兵法にある「相手を知り、自分を知れば、負けることはない」の意。

ビジネスに例えると、「顧客」を知ること、「自分の強み」を知ることに置き換えられます。それら、情報を集めれば勝てると言うこととなります。

 

と言うことで、「SAGA」に例えるなら、OVAを買ってもらうためで重要なのは、サイバーファンのことを知ることです。自分の強みに部分は、福田さん等スタッフを信じて「SAGA」を真摯に作ることだと思うのです。

 

よって、わたしがやるべきこととは、「サイバーフォーミュラ」のファンを知ることです。

そのために、ファンの方々を自分の目でリアルに見たかったのです。

 

1時間くらい見ていると、ちょっと面白いことが分かりました。

お客さんと、売り子さんの会話で、同人誌◯◯を描いていた△△さんは、「スラムダンク」を描いているよ、とか、「ガンダムW」に落ちたよ、と。

なるほど、同人誌を描いている方々、お客さん自体も「サイバーフォーミュラ」から別作品に移っている訳です。

ふと考えると、スポーツ物、青春物など何かしら似たニュアンスの作品に流れているように見えました。

さらに、合致することとして「ガンダムW」には「サイバーフォーミュラ」に出ている声優さんがいるな?と思ったりしました。

もしかすると声優さんつながりで作品を追いかけるファンもいるのだと、この時に知りました。

 

以降のコミケ会場はビッグサイトとなりました。

わたしは、晴海の自由な感じの空気感が心地良かったなと、たった一回しか行ってないのに、思い出したりします。

 

1996年8月1日第1巻発売当日。

来たるべき日が来ました。

第1巻に対してアンケートも来ましたので読みました。辛辣な意見もありました。好意的な意見、感想もたくさんあります。これも、ファンの皆さんを知ることにつながります。

ただ、あまりにもファンに寄り添い過ぎても駄目だと言うことも徐々に知ることになります。

わたしたちの作る物語など、お客さんが考える『一歩半』先を歩かないといけません。

でも、二歩、三歩先とかやり過ぎて分からないことになると駄目です。

さらに『その場歩き』で前に進んでいない物語は絶対に駄目です。

『一歩』だとお客さんが考えることと同じになるかも知れません。

 

この『一歩半』のことはわたしが20代の頃にサンライズの先輩に聞きました。

『一歩』でなく、『一歩半』、この『半』が大切なんだ!と。

微妙なさじ加減です。

お客さんの考えることにある程度沿ってみるけれど、お客さんの思いを良い意味で裏切り、やはりプロだなって思ってもらうべき「さじ加減」は仕事をやって覚えて行くしかないのです。

 

また、プロを名乗っている我々制作マン、各クリエイターは、各々の『技』を見せる必要があります。その『技』にお客さんは買って見てくれていますし、称賛をいただけると思っています。

 

最後に、アニメ制作、商品化、宣伝などにも、上記で書いた「孫子の兵法」が役に立つと思っています。大昔、中国で戦争などのために考えられたことですが、ビジネスにも通用しますし、わたしの仕事でも当てはまることが多いです。

 

興味のある方は、現代語訳の「孫氏の兵法」の本がたくさん本屋さんに並んでいますので、読んでみてください。

 

追伸:

YOUTUBE「ふるさとPアニメ道」もスタートしましたので、ぜひぜひチャンネル登録の上、ご覧くださいませ。

🔻リンクはこちら

HTTPS://WWW.YOUTUBE.COM/CHANNEL/UC_JRVVLJSFUHGMXPCVYUQ5A

 

🔻ふるさとP写真録:今週の一枚

 

 

 

 

 

 

古里尚丈(ふるさとなおたけ)

1961年5月3日生まれ。青森県出身。

1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。

2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』アソシエイトプロデューサーとして参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。

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