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記事: 第26話:『仕事も終わり、「君は制作に向いていない」は呪いの言葉』

第26話:『仕事も終わり、「君は制作に向いていない」は呪いの言葉』

「天空の城ラピュタ」の上映日も近くなり、どんどんカラーになっていきます。

リテーク作業も進み、全てのカットが決定稿になっていきます。

 

音声は、4chドルビーステレオです。

4chのアナログ音声を音ネガに焼き込む必要があります。

音ネガ作成は、東宝スタジオでやってもらった記憶があるのですが、エンディングに載っていないのです。ですので、違うスタジオでやってもらったかも知れません。

当時、4chのアナログ音声を音ネガに焼き込めるスタジオが少なかった記憶があります。

できた音ネガを移動してイマジカ(現像所)で現像し、その音ネガと完成の画ポジを合わせてプリントを焼いて行くことになります。

わたしは、このラスト音ネガの作業を担当していたので、初めてのことが多くてワタワタでした。

 

ついにラピュタの制作作業も終わり、初号も無事に終えました。

ついに映画館で上映が始まります。

 

打ち上げをやったのか?どこでやったのか?の記憶が抜け落ちています。

 

すべての作業が終わり、スタジオは後片付け体制になりました。

アニメーターをはじめ、クリエイターは次の作品を行うために解散となります。

若干名のアニメーターは残っていますが、でも、スタジオは閑散となりました。

そして、制作進行も解散となります。

 

次の作品が動けば呼び戻されるのですが、基本は解散です。

 

では、わたしは?

 

次の作品のことは知らないし、いつから動くのかも知りません。

社長面談で、開口一番。

 

「古里くんは制作には向いていない」と言われました。

 

ああ、そうなんだ。

わたしの評価はそれなんだ!と思いました。

 

制作進行として「クビ」を言い渡されました。

 

西荻窪にアパートでは、ジブリに行く必要がなくなってしまい、部屋のなかでボーッとしています。

人間落ち込むと、なかなかにネガティブな思考になるし、その泥沼から抜け出るには、途方もないエネルギーが必要になることを知りました。

 

さてわたしは、次の仕事を探さないと、何をやれば?何処の会社に行けば?と頭のなかでグルグルです。

とにかく一生懸命考えました。

アニメの制作に向いていないわけだから、アニメ業界から別な業界に行くべきなのか?を考えました。

 

しかし、時折アニメ業界で仕事を探すべきなのか?とも考えたりします。

でも、やはり年長の先輩の社長の言葉ですから、アニメの仕事はあっていないと考えてしまいます。

 

しっかり信じますよね。

 

マジに、自分は制作進行が向いてないし、駄目なんだと!!

と言うことで、悩みました。

長い時間悩みました。

すぐに答えは出せませんでした。

 

正直、仕事をしないとご飯が食べられないのでバイトをやりました。

でも、バイトはやはりバイトです。

手は抜いてませんが、身が入りません。

 

そして、写真の専門学校に入ったわたしは、改めて写真関係の仕事をやることにして履歴書を書いて、ある会社の面接を受けました。

プロカメラマンのフィルムを回収して、現像するラボの仕事です。

数日仕事をしましたが、これこそ向いておりませんでした。

 

以降、サンライズに入社するまで半年ほどバイト生活となりました。

 

そうなのです。

わたしのアニメ道はここで一旦途切れてしまうのです。

制作に向いていないと言われて、それなりに時間が経っても、わたしの頭の中はその言葉が支配しておりました。

 

なかなかに「呪いの言葉」でしたね。

 

25歳、ここで考える時間をもらったわたしは、自分の将来を一生懸命に考えました。

なにが、自分にあっているのか?

なにを自分はやりたいのか?

ずっと、長く続けることができる仕事は何なのか?

 

ある日、自分のなかにアニメをやろう!と言った小さな思いが芽生えました。

素直に、やりたいことを悩んで探した結果、やはりアニメしかない、と言う答えを導き出したのです。

 

ここで考えたことや行動したことは、書くと長く長くなるので、書きません。

何かの機会があって、書く、話すことがあるかも知れませんが、それまでは、金庫のなかに仕舞っておきます。

 

アニメを続けると決めると自然と情報が来るもので、日本アニメーション時代の後輩がサンライズに務めていたのですが、その彼から連絡をもらいました。

サンライズが制作進行を募集していると言うことです。

 

そこで、サンライズに電話を入れて、最初に会ったのが、このブログに良く登場する吉井(孝幸)さんです。当時は、機甲戦記ドラグナーのプロデューサーでした。

面接を受けて、入社の運びになったのです。これ以降は、「サンライズ編」で書きたいと思います。

 

わたしは、サンライズに入ってからも、たびたび「向いていない」と考えることがありました。

ですから、進行、設定制作、制作デスク、アシスタントプロデューサー、プロデューサーとなるに従い、「何故に向いていない自分が制作を続けてるのだろう?!」と、自問自答することが良くありました!!

 

この年齢になっては、その悩みは今さら何じゃそりゃですよね。

アニメの制作を63歳のいまも続けているので、向く、向かないと考えること自体ナンセンスなのかも知れませんが、でも、わたしの心の奥に眠っている呪いの言葉ではあります。

 

でも、ジブリを辞めた後に、この「向いていない」と言われて悩んだ時間があったからこそ、いつもどこか客観的に自分を見ている自分「古里尚丈」がいます。

 

有頂天になったり、図にのったりしそうになるとき、必ず、この言葉が頭によぎります。

失敗すると、やはりそうだよな!と思いますので、必死になって勉強したり考えます。

 

状況が迷走して答えが見つからないときに、良く家内に「自分は、向いていない」と吐露することがあります。そうすると、家内は「ふ~ん」と言います。答えは自分で出せやってことで、家内が答えることはありません。なかなか、シビアな展開になるので、最近はあまり言わないようにしていますね。

 

逆に、自分はなんと制作が向いているんだろう!と鼓舞するときもあります。

家内に話すと、これもまた、「ふ~ん」と返されます。

やれやれ、どっちにせよ、自分で答えを出す、いや、答え探しをしなければならないようです。

 

原社長には、ジブリを辞めたあとお会いできずにおります。

でも、わたしのなかでは、社長にいただいた言葉がいつもあります。

 

感謝しています。

 

ありがとう御座います。

 

 

 🔻ふるさとP写真録:今週の一枚 

 

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古里尚丈(ふるさとなおたけ)

1961年5月3日生まれ。青森県出身。

1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。

2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』アソシエイトプロデューサーとして参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。

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