第104回:『ミスター味っ子の時代のアニメ裏話です』
1987年10月からテレビ東京で放送が始まったテレビシリーズ「ミスター味っ子」。
わたしは、その制作進行として、7月から参加して、約2か月半で第1話を作りました。
とにかく、短期決戦で作りました。
また、現在のデジタル作業と違って、仕上げがセルに色を塗って、それを、フィルムで撮影するアナログ時代です。
と、言うことで今回は、アナログ時代のトラブルを思い出してみます。
原画(紙)、作画監督の修正用紙も動画(紙)、それに仕上げのセル画もカット袋に入っています。背景(画用紙)も上がりました。それら全て、自分の机のうえにリアルに置いています。
それを、次の工程として、撮影会社に持って行って撮影してもらうのですが……。
そこで、かならず思い出すのは、とにかくセル画が重いのです。
これらの上がりをたくさんカット箱に入れて運ぶのです。
カット箱は、プラスチックで出来た箱です。
その箱は、蓋もあります。
つまり、洋服などを入れて押し入れにしまう収納ボックスを流用して使います。
蓋が締まらないくらいカット袋を入れると、本当に重いのです。
わたしたちは、それら収納ボックスを「カット箱」と呼んでいました。
では、改めて当時の撮影に持って行く作業を書いてみます。
まず、制作進行が用意した、動画用紙、セル画とタイムシートの入ったカット袋と上がった背景を合わせて大きなテーブルに用意、カット番号順に並べて演出家さんに見てもらいます。
演出家さんは、それらセル画と背景を合わせてチェックしさらに、タイムシートを見直すことで、問題なく撮れると判断すると、背景にセル画のタップ位置を書き入れて、OKとなります。
これらの作業を「撮出し」と言います。
撮出しOKになったカット袋を、カット箱に入れて運ぶこととなります。
当然、カット袋の数が多ければ、ボックスが2箱、3箱になります。
そして、大きな背景は折ってはまずいので、丁寧に車に積む必要があるので、3~4往復になったりします。
スタジオからビル下に停めている車に数往復してカット箱を積むのです。
この作業が大変です。
「ミスター味っ子」班は、ビルの2階にありましたので、2階から1階の裏口から外に持って出る必要があります。
一番嫌なのは、雨の日でした。
カット箱に蓋を締めても背景が濡らすことが出来ませんので、大きなビニールをかぶせて持っていくことになります。問題は、大きな背景です。丸めて、ビニール袋に入れてとにかく濡れないように厳重にします。
カット箱を両手に持って運びますので、傘は使えないので、自分は濡れるのです。
人間は濡れても良いが、セル画と背景は濡らすわけには行きません。
大切なのは、セル画と背景です。
撮影会社の駐車場に着いてからも、荷台から降ろして運ぶときに雨に濡らしてはいけません。
「ミスター味っ子」班の撮影トランス・アーツさんに持っていくのですが、入口はそんなに広くありません。表玄関を開けて靴を脱ぎます。
そして、室内に入るドアを開けて、小さい待合室にある棚にカット箱を乗せるまでの作業になります。撮影スタッフが、休憩タイムだとその部屋に数名いるのですが、撮影作業をしていると誰もいないのです。誰もいないと、「おはようございます!!サンライズ古里です。セル置いていきます」と、大きな声で撮影室に聞こえるように挨拶をします。
ここで思い出すのは、制作デスクが新人進行に言うことです。
「お前は濡れても良いが、背景は絶対に濡らすなよ!」なのです。
どうしてか?
当時の背景は、画用紙にポスターカラー(絵の具)で描いていたからです。
画用紙ですから、雨に弱いです。
雨粒が着いたらそれがシミになりますし、またポスターカラーに水が着くと色が変わるし、もう大変です。
つまり、撮影に使えなくなります。
その場合は、その濡れた背景を背景会社に持って行って直してもらうことになります。
美術スタッフは手間が増えるので嫌がるし、スケジュールがなくなっていきます。
制作進行としては、撮影が間に合うのか????となるので、濡らしたくないのです。
ちなみに、新人進行でいくつかの事件を思い出します。
制作デスクが新人進行に、「背景は大切だから丁寧に扱うんだぞ」と言ったので、上がった背景を丁寧に折ってしまったのです。
わたしたしは、それを見て唖然です。
当然使えなくなったので、背景会社に持って行って新しく描いてもらうことになります。
その新人が、どれだけ怒られたのか?です。
ある雨の日、撮影会社で車からカット箱を取り出したときに、雨で濡れている地面に背景を落としてしまったのです。
とほほ、これも、使えなくなって、背景会社に持って行くこととなります。
雨でなくとも、スタジオで撮出しのために作業しているとき、床に背景を落としてしまい、さらに、踏んづけてしまったこともあります。
これも、サンダルの足跡が付いてしまって、背景会社に持って行くこととなります。
このようなトラブルは、何度か見ました。
ちなみにわたしも、背景会社に行って直してもらったことあります。
さて、どんなミスだったのか?
思い出せないです。思い出したら、どこかで書きますね。
背景以外でも、新人進行さんは、セル画でトラブルを起こしたのを見たことがあります。
車からカット箱を取り出すのですが、ひょんなことで蓋が外れていて、一番上にあったカット袋から、セル画飛び出して地面にザーと撒いてしまったのです。
セル画に地面の土が付いてしまったために傷が出来たので、これも撮影がやれなくなり、改めて仕上げのスタッフに掃除をしてもらうこととなります。
なかには、セル傷がしっかり付いてしまって塗り直しがあると、もう大変です。
どんどんスケジュールがなくなるし、仕上げスタッフには怒られるし、制作進行の受難が続くのです。
撮影会社に持っていくだけで起きる事件やトラブルをいくつか書けました。
当然、アチラコチラのスタッフに怒られますので、つらい事件なのですが、そんなことも今になると懐かしい思い出となるのが、不思議です。
あと、夕方まで撮影したフィルムを持って決められた時間までに東京現像所に届けることです。
それが、18時だったのか?19時だったのか?とにかくその時間に到着しないとフィルム現像してもらえないのです。
それに間に合うように車を走らせていました。
事故しないように、安全運転で、でも、到着も遅らせないようにと、一生懸命でした。
東京現像所に届けて、21時くらいに現像が終わるので、改めて回収に行きます。
あるいは、上がりを東京現像所内の椅子で待っていることもありました。
制作進行は、東京現像所の窓口業務の担当氏とどんどん仲良くなっていきます。
本来休日の土日のどちらかも休日出勤してもらって、フィルム現像してもらうこと多かったのです。
「古里さん、今回もまたですか」と何度言われたことか?
制作デスクになってからも、何度電話をして頼んだことか……。
本当に本当に、あの頃お世話になりました。
アナログのセル画時代のアニメ。
「勇者シリーズ」から、「新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA」と「SIN」他。
「GEAR戦士電童」の途中話数まで、現像でどれだけご迷惑をかけたことか?
その東京現像所は、いまはありません。
時代の流れで、フィルムからデジタルになり、ビデオ編集がマストになりました。
「ミスター味っ子」の頃でも、テレビ放送の実写ドラマ、バラエティ番組ではビデオ撮影がメインなっていたので、どんどんフィルム現像が減ってきていました。
当時の東京現像所は映画のフィルム現像が多かったと思います。
さらに、映画館がプリント映写だったので、映画館の館数分プリントを焼いていました。
2001年頃に、アニメ業界がフィルム撮影からデジタル撮影にほぼ切り替わります。
時代の変化が起きました。
わたしは、フィルムの画質が好きでしたが、でもデジタル撮影は作業のメリットが大きく、パソコンの技術革新からの大きな変革を迎えたのだろうと思います。
東京現像所の窓口業務の担当氏をいまでも思い出します。
特に、わたしが制作デスクからプロデューサーになってからの個性豊かだった方3~4人いるのですが、会いたいなあ。あの笑顔を見たいです。
※セル画、セルとは?
薄く透明なアセテート繊維の板。
そのセルに、動画の線をトレースして裏面にアニメカラーを塗ることとなる。
トリアセチルセルロース(TAC) (アセテート繊維)
1950年代から用いられた。日本のアニメ業界では富士写真フイルムの「フジタック」ブランドから発売されたアニメ用TACが長らく市場で独占的な地位を築いた。1985年頃からはアメリカとの合作などから、コダック社のTACの価格の安さが認知され、やがてこちらが使用される場合も増えた。
古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。
1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』アソシエイトプロデューサーとして参加。現在、漫画原作『貴姫さまの憂鬱~あやかし探偵事件簿』をはじめ、新企画を準備中。




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