第105回:『アナログ時代のアニメ作りのメリットデメリットとその裏話』
わたしが、1983年から1994年あたり20代の頃。
アニメ業界に飛び込んだ青春時代真っ盛りの頃のお話。
「不思議の国のアリス」「超人ロック」「ミームいろいろ夢の旅」「天空の城ラピュタ」「ミスター味っ子」「勇者シリーズ」まで、わたしは制作進行、設定制作、制作デスクでした。
「新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA」から「GEAR戦士電童」の途中までフィルム時代、アナログ時代ですが、まずはわたしの青春時代を中心に今まで書かなかったことや、改めて思い出したことを書きます。
前提として、当時デジタルの前にアニメ専用の機械がありませんでした。
唯一、「トレースマシン」セル画に動画の線をトレースするマシンです。
前も少し書いたのですが、これもモーターがあってガラス管が回る。そのガラス管の中にヒーターがはいっているだけのとてもシンプルな機械なのでした。いま、この機械を持っている仕上げ会社はとても少ないです。
あとは、普通にオフィスにある機械です。
コピー機、電話機(コードでつなかって机の上に置いてある)、あと電卓。改めて考えても、やはり、機械がないですね。あと、FAXが加わるかなと思います。
テレビとビデオデッキはありました。でも、テレビはブラウン管だしビデオもベータとVHSの2種類がありました。あの頃は、VHSが主流になってきていました。画質は、ベータの方が綺麗なのですが、VHSは本体の価格など色々安かったし、ビデオテープも少し価格が安かったですね。そして、構造がベータに比べるとシンプルだったので世界中で作りやすかったのも普及のつながったのではないかな?と思います。
しかし、頑張って思い出しも、アナログの局地だなって思います。
日本アニメーションのスタジオ内のことを少し書いてみます。
玄関を入って右が、制作室でした。我々制作進行がいる部屋です。
事務机がたくさんありました。
作品別に班が分かれていました。
ひとつの島は、制作デスクと進行4~5名くらいの5~6名が多かったと思います。
テレビシリーズが4作あるとすれば、「6名×4作」で約20名。そこに、次の作品の準備班があるので、25人くらいいたのかな?と思います。
部屋の壁は、動画とセル画が入ったカット袋を置くためのスチール棚がぞろっと並んでいます。その棚には、背景の上がりも並んでいます。それら棚は、作品別に用意しています。
テレビシリーズ4作動いているならば、作品1作ごとに棚は4~5ありました。
かなりの面積を要します。
また、その棚の近くに、長テーブルや大きめの事務机があります。ここで、演出家が「撮出し」を行います。「撮出し」のことは、前回の原稿で書いております。
改めて思い出すと、1階にミニ映画館のような場所がありました。
そこは、セル画と背景を合わせて撮影したフィルムを現像したラッシュを見る部屋がありました。ちなみに、このラッシュを見ることを専門用語では「ラッシュチェック」と言います。
16ミリ映写機でラッシュフィルムを見るのです。いわゆる、上がりのカットの確認です。
会議室のように閉じられて場所ではなく、通路の途中に広めの場所があってそこでカーテンを閉めて光が入って来ないようにして、40インチくらいのスクリーンでカットを見て確認していた記憶があります。
この映写機にフィルムをかけるのが新人時代の最初の頃の仕事でした。
先輩が1~2回やって見せて、「はい、次古里くんね、やってみて」と。
初めてさわる映写機です。とにかく悪戦苦闘して、フィルムを映写機にかけるのですが、失敗してスイッチを入れた途端に「ガガガ……」と異音がします。焦ってスイッチを切りますが「ブチッ」とフィルムを切ったこともあります。
その部屋のかたわらに、フィルム編集の部屋もありました。
35ミリフィルム、16ミリフィルム、ネガフィルムとラッシュフィルムが置いてあるのです。現像の薬品の匂いが充満している部屋でした。
わたしは、中学、高校時代と写真部ですから、フィルム現像をしていたので、慣れた匂いなのです。逆に安心出来た場所でもありました。
基本、わたしたち進行がフィルム、特にネガフィルムは絶対にさわることは出来ません。
ちなみに、映写機にかけるラッシュチェックのフィルムはさわることは出来ます。
そして、2階が階段を上がって、右側は演出、美術、仕上げのスタッフがいます。
階段を上がって左側は、名作シリーズの演出家、美術、作画さんたちがいます。
わたしの担当した「不思議の国のアリス」の演出、作画、美術のブロックは、右側の部屋に入ってすぐのところでした。
作画机が数台あって、そこの動画チェック、アニメーターの森(康二)さんの机。
監督、演出家、美術さんの机があった気がします。それぞれ皆さんが背中合わせになるように机の配置だったと思います。いわゆるコの字のようなイメージです。
仙人のように見えた森さんが、椅子の上にあぐらをかいて座っている姿が浮かびます。
白いお髭姿が仙人みたいに感じたのですが、いまの自分より年齢が若かったので、「仙人みたいです」と、森さんに話したら叱られますね。
そして、近い年齢だった動画チェックの武内(啓)くんとの楽しい会話も思い出します。
となりのブロックには、「ミームいろいろ夢の旅」の監督、演出家、演出助手さんたち、アニメーターさんが数名いた気がします。
こちらも背中合わせになっているので、椅子をくるっと回すと後ろのスタッフさんと会話できます。割合、みんな話し合いながら作業を進めていたのを見たことあります。
そして、奥のブロック(西側)が仕上げ室になります。
そこには、ほぼ女性になるのですが、仕上げスタッフがいます。
色指定のベテランが3名。若手の色指定さん、仕上げさんが7~8名。合計10名強いたような気がします。
さて、この仕上げさんのスペースは、新人の制作進行が良く行く場所になります。
そして、一番怒られる場所でもあります。
わたしが、1階の制作室にいます。そうすると、内線が鳴ります。制作デスクが、その電話を取って「古里くん、(色指定の)小山さんが呼んでるから行って」と言います。わたしは、「ン?」何だろうと考えながらダッシュで2階に行きます。
まず、仕上げ室に入る前に、ちらっと小山(明子)さんの顔色、表情を見てから、怒られるのか?何か頼まれるのか?機嫌が良いのか、悪いのか?を一瞬で判断して飛び込みます。
ドキドキしつつ、わたしは、「はい、何でしょうか?」と問いかけます。
そこに、何らかのお願いだったり、あれ持ってきて、とか、色々頼まれるのです。
日本アニメーションにいた2年間、この仕上げ室に行くのは、怖かったですね。
怒られることしていないはずでも、怖かったです。その理由は、新人のときに、仕事のこと何も知らないので、聞くしかないのですが、そうすると忙しいときに聞いてしまうと機嫌が悪くなります。また、新人なので良く失敗します。そうなると、また呆れられます。
あと、いま考えても何だか良くわからないのですが、色指定のお姉さんたちの存在がビビるんです。何でしょうね。色指定、仕上げ作業は、アニメの仕事のラスト手前の仕事なのです。ラストは撮影、現像です。
非常に大切なポジションであり、スケジュール的にタイトなのです。
ここでミスると納品出来るのか?状態になります。
だから、日々ピリピリしているのです。
毎週放送すると言うことは、毎週納品があり、毎週絶対に修羅場が来るのです。
例えば、納品が金曜日だとすると、精神的に休める日にちは、土曜日と日曜日しかない訳です。月曜日はまだ静かですが、火曜日、水曜日は修羅場がヒートアップし、木曜日ピークで夜に終わり、次の金曜日に納品します。
この繰り返しとなります。
でも、テーブルにお菓子やフルーツが置いてあって、「古里くん、食べていいよ」と進められることもあります。お茶の時間にごちそうになる時もありました。
わたしの担当は「不思議の国のアリス」「超人ロック」「ミームいろいろ夢の旅」だったので、名作シリーズの作画室に行くことは少ないのですが、たまに行くと、お菓子をもらうことがありました。いま考えても、もらう率が高かった気がします。わたし、狙って行ったんでしょうか?あるいは、お菓子が欲しいです、と、顔に書いていたのでしょうか?
名作シリーズの作画室は広く、数十人いました。
作画だけでなく美術監督の「阿部(泰三郎)」さんの机もあるのですが、目の前の壁に「ボード」が何枚も貼っています。
そして、広めの机のうえには、ポスターカラーがたくさん。筆と筆洗が置いています。
そこで、背景マンに渡す背景ボードを描いていくのです。
わたしは、その背景ボードを描いている姿を見ることができたのはとても幸せでした。
背中越しに、筆さばき、ポスターカラーの色の使い方、色の重ね方など色々テクニックをチラ見したのは、後々役に立ったと思います。
あと、「赤毛のアン」の美術監督井岡(雅宏)さんの仕事ぶりことなども教えてもらえました。
それなのに、教えてもらったネタを忘れてしまって泣くしかない自分です。
大好きな「赤毛のアン」などの美術監督なのに……。
さらに阿部さんの、美術設定を描いている姿も見ることができました。
鉛筆でB4の用紙に描いていくのも背中越しに見ました。
キャラクターの色を決める方法です。
色指定さんが、セルにキャラクターを写してそこに色を塗っていくのですが、いくつかのパターンを作って、それを監督、キャラクターデザイナー、プロデューサーに見せて決めていくのですが、それも、机の上に置いてみんなで見ながら、あれだこれだと言いながら決まっていきます。
デジタル時代のいまは、同じくキャラクターの色味を決めるときは、全てパソコンで作り込みをします。そして、液晶のモニターに映して、監督たちが見て決めていきます。
アナログとデジタルでは、机の上に置いたセルを見ることが、モニターのなかの絵を見ることに変わっても、ほぼ同じ工程で作業をすることとなります。
つまり、人間が考えて人間が決める、これは、アナログであろうがデジタルになろうが、監督やプロデューサーが見て、熟考して決めることは同じなのです。
紙がタブレットに。
鉛筆がタブレット用のペンに。
絵の具がパソコンのアプリで塗ることに。
フィルムカメラで撮影がスキャンしてデータに。
映写機からスクリーンに映すがモニターで見る、に変化しました。
また、ここに、インターネットと言う新しい技術が加わったことで、遠い場所で描いた絵を瞬時に届けることができることになりました。
アニメの制作会社は、東京に多いです。
でも、作画、仕上げなど地方でもやれます。昔は、宅急便で動画を送る、セルを送ることが必要でしたが、いまは、インターネットでデータを送ることでやり取りできます。
韓国、中国などの海外ともインターネットを通じでデータのやり取りをします。
これらインターネットの使い方は便利だと思います。
わたしが制作進行のときは、1カットであってもリテークがあれば、直して撮影に持って行って再撮影してもらって、東京現像所に届けて現像してもらう必要がありました。
でもいまは、その1カットを直したら、データをインターネットを使って撮影に送って、再撮影してもらって、それを改めて監督たちに見てもらってOKなら、編集室に送ることができます。
この数時間の作業は、制作スタジオと撮影スタジオと編集スタジオがそれぞれインターネットでつながっていることで、進行が車で物を運ぶ必要はなくなりました。
そうなると、事故も起きなくなるし、ガソリンを使うこともないし、排気ガスも出ません。
やはり、昨今のデジタル作業はアナログ時代に比べて、メリットはありますね。
でも、仕事が背中越しに見えるアナログ時代、そんな時代もわたしは好きです。

古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。
1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』アソシエイトプロデューサーとして参加。現在、漫画原作、新企画を準備中。




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