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記事: 第2話:『驚く展開で新人プロデューサー誕生』

第2話:『驚く展開で新人プロデューサー誕生』

わたしは、26歳の暑い夏の頃、7月に、株式会社サンライズに入社しました。

制作進行、途中から設定制作として「ミスター味っ子」を担当し、設定制作「勇者エクスカイザー(以下、エクスカイザー)」、制作デスク「太陽の勇者ファイバード」「伝説の勇者ダ・ガーン」「勇者特急マイトガイン」「勇者警察ジェイデッカー」、アシスタントプロデューサーとして「黄金勇者ゴルドラン」を制作しました。

32歳「勇者指令ダグオン」の企画が始まった頃、悩み多き時期でした。

 

アニメ業界に21歳で足を踏み入れてから32歳まで、早いもので12年ほど経っていました。わたしは、サンライズの前に、日本アニメーション、スタジオジブリを経てそれなりのキャリアがありましたが、サンライズ歴は8年くらいです。

同期がどんどんプロデューサーになっていくのを見ていました。

ですが、わたしは呑気で、早くプロデューサーになりたいと考えたこともなかったのです。

それは、現場でアニメを作っていることが楽しかったからです。

 

しかし、悩みがありました。それは、当時の上司との相性が良くなかったのです。

上司と会話をしても、アニメの企画や制作の考え方に違和感を感じていました。

色々考えて、当時の上司の上司である吉井(孝幸)プロデューサーは、「勇者シリーズ」、「新世紀GPXサイバーフォーミュラ(以下、サイバーフォーミュラ)」、「魔神英雄伝ワタル」等のプロデューサーであり、わたしの入社時の面接官でもありました。

意を決して吉井さんに相談に行ったのです。

自分が考えていることを素直に話ましたら、吉井さんは斜め上からの言葉を発したのです。

 

「プロデューサーになるか?」

 

わたしの頭のなかは、「????」のオンパレードです。

「え、この人はなに言ってるんだろう?」と思いました(笑)。

実は、当年から遡ること5年くらい前、吉井さんに「将来なにをやりたいか? なにになりたいか?」と聞かれて、「プロデューサーになりたいです」と答えたことがありました。

そのときは「じゃあ(「ファイバード」の)デスクな……」と。※この事件もいずれ書きます。

「宿題を出すので、まずはオリジナル物の企画書を書いてこい」と言われたので、すぐにワープロを買うために電気屋さんに行きました(笑)。

徹夜して、23週間くらいで企画書を書いて提出しました。

そんな経緯があったことを、一瞬で思い出しつつ吉井さんには「(プロデューサーに)なりたいです」と答えました。

すると当時、総務だった中川(宏徳)さんに会いに行けと言うのです。

中川さんに会うと、3本ある企画の中から「どれをやりたい?」と問いかけてきました。

わたしは、これ!と指さしたら、どれやりたい?と改めて問いかけて来るのです。

……覚悟を決めて「サイバーフォーミュラ」をやります!と伝えると、今度は上司の指田(英司)プロデューサーに会いにいけと……。

待っていた指田さんは、ニヤニヤしながら「福田(己津央)監督が書いた企画書だ、読んでおけ」と企画書をポンと手渡されました。

いまでもあの時の指田さんの顔を思い出します。上井草駅から少し歩いたところにあったロイヤルホストで指田さんと会った記憶がありますが、いまそこは違うレストランになっていますので、時間が経ったことを感じます。

 

そして、福田監督に会うことになるわけです。

 

これってなにかのRPGみたいな始まりだなと思いながらも、いやいやおかしいだろう素晴らしいアイテムや軍資金をもらえたわけでも仲間が増えたわけでもないのに、丸裸で福田監督に会うの?って(笑)。

 

あ、でも、わたしの眼の前にいる福田さんはこわーい大魔王様ではないですよ(笑)。

当時、ニコニコ笑顔で会ってくれましたから。

 

そんな漫画みたいな展開で私の「プロデューサー人生」が始まりました。

 

後で考えると吉井さんは、わたしの心の奥底にあった次のステップに進みたいと言う気持ちを察してくれたのだろうと思います。

ちなみに、総務の中川さんが出した3本の企画のなか、残る2本のタイトルは伏せておきますが、どうして覚悟を決めて「サイバーフォーミュラ」だったのか?を書きます。

わたしは、「エクスカイザー」の設定制作時代の上司が吉井プロデューサーになります。

そして、「エクスカイザー」の第1話の演出家が福田己津央さんでした。第1話の絵コンテ、演出、また、オープニングやロボットたちの変型合体を絵コンテ、演出も担当するのですが、福田さんの担当したロボットやバトルがひたすらカッコ良かったのです。

日本アニメーションとスタジオジブリで見てきた演出家の誰とも違う才能を持った福田さんの作画打ち合わせなどに立ち会うのは気づきも多く楽しかったです。

 

福田さんは「エクスカイザー」の後半時期に、TVシリーズ「サイバーフォーミュラ」の監督に起用されました。

そのTVシリーズ「サイバーフォーミュラ」のプロデューサーが吉井さんでした。

わたしは、勝手に縁を感じていました。

尊敬する吉井プロデューサーの作ったアニメのOVAからプロデューサーになるので、身が引き締まる思いでもありました。

そして、ロボット、メカアクションのめちゃカッコいい演出をする福田さんが監督するわけですから、プロデューサーをやりたいと考えるわけです。

ただし、この「サイバーフォーミュラ」は、当時制作状況が悪くて、外注スタッフに好まれてはいませんでした。だからこそ、「サイバーフォーミュラ」でプロデューサーをやると言うのは、新人のプロデューサーである自分には荷が重いと考えたのです。

 

さらに、「プロデューサーって何をやるんだ???」と、リアルに課題が山積みでした。

 

そんな漫画のような経緯でOVA「新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA(以下、サイバーフォーミュラSAGA)」のプロデューサーとして福田さんと一緒に作品を作っていくことになりました。

本当に大変な作品でしたが、そのおかげで良いこともたくさんありました。

以降、「GEAR戦士電童」「クロスアンジュ~天使と竜の輪舞」「グレンダイザーU」と、福田さんと一緒に仕事がやることが出来ました。

わたしは、福田さんの作るフィルムが大好きなのです。

 

また、新人プロデューサーであるわたしに、アニメの企画から脚本作り、音楽、営業宣伝などについても福田さんから教えてもらったことが多いです。

面白いもので、制作進行がやれるから制作デスクが上手にやれるか?は別物です。

また、制作デスクが上手いからプロデューサーがやれるのか?もまた別です。

仕事はかなり似ているのですが、それぞれ役目が変わっており、違うスキルやテクニックが必要になります。

 

また、新人プロデューサーになったから、教えてくれる教科書があるわけでもないし、参考書があるわけでもないのです。

 

それこそ、「エクスカイザー」で吉井さんが何をやっていたのか?を思い出し、進め方のフローチャートを自分なりに書いていくしかないのです。そこで、次に何をやるのかと、分からないことを一番聞いたのが、福田さんでした。

福田さんはすでに、TVシリーズ、OVA2本を経験していましたので、先輩です。

ですので、音響監督との打ち合わせはどうするの?作曲家との音楽打ちって何?とか、スタッフとして誰を参加させたいのか?などなど、新人プロデューサーのお仕事は続きます。

 

兎にも角にも、新人プロデューサー1年生のわたしが、当時「サイバーフォーミュラSAGA」という作品に関わって、楽しかったこと面白かったこと、勉強になったこと、ヨタヨタしながら奔走したことを書きたいと思います。

すでにTVシリーズで人気を得て、OVAが続いて作られていたので、実績を持っていない新人プロデューサーのわたしにとっては、アニメ制作以外の部分でもさまざまな知識を得ることが出来ましたし、なによりも様々な方々と出会えたことが宝です。

 

福田監督は言わずもがな、いのまたむつみさん、マシンデザイナーの河森正治さん、アニメーション用のキャラクターデザイナーの久行宏和くん、メカ作監の重田智さん、作曲家の佐橋俊彦さん、エアーズ(後ランティス)の井上俊次さん、ライターの両澤千晶さんなどなど、挙げるときりがないですが、誰もがかけがえのない存在となっています。

さらに、ヒットすることが前提のような「サイバーフォーミュラシリーズ」という作品に最初に巡り会えたことで、貴重な成功体験を積むことができたことは、とある日の吉井さんの一言「プロデューサーになるか?」から始まっています。

 

アニメ道をひた走る自分にとって、ブーストがかかった忘れられない記憶です。

かなり、漫画か小説のような展開なので、どこか嘘っぽいですが「事実は小説より奇なり」なのです。

 

次は、本格的に動き始めた「サイバーフォーミュラSAGA」の制作のよもやま話。大切なスタッフ選びなど、書きたいと思います。

 

🔻202312月にいのまたむつみ氏に描いてもらいました。ありがとうございます。 

 
 

追伸:

今日からYouTube「ふるさとPアニメ道」もスタートしましたので、ぜひぜひチャンネル登録の上、ご覧くださいませ。

🔻リンクはこちら

https://www.youtube.com/channel/UC_jrvVljSFUhGmxpCvYuq5A

 

 

古里尚丈(ふるさとなおたけ)

196153日生まれ。青森県出身。

1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。

20112月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』アソシエイトプロデューサーとして参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。

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