第9話:『素晴らしき声優さんたちのプロの仕事を見ました』
ついに「サイバーフォーミュラSAGA」第1話のアフレコが始まります。
わたしにとって、声優さんたちに会うのは初めてなのです。別の作品で会ったことのある声優さんはいましたが、でも、半分の方は初めまして、でした。
音響監督の藤野さんが、アフレコが始まる前に、アフレコブースに福田監督、わたしを招き入れます。福田さんは、何度もこのメンバーとアフレコをやっていますので平然としたものですが、わたしは、ど緊張していました。
藤野さんは、軽く作品内容の説明をしまして、今回から新しいプロデューサーが参加しましたと言わんばかりに、わたしに挨拶をうながします。
ぞろっと揃ったメンバーの前に出たわたしがドギマギしながら自己紹介、挨拶をしました。さて、何を話したのか?覚えていません。
多分、「新人プロデューサーの古里です、サイバーフォーミュラも新人です」みたいなことを話したのではなかろうか?と思います。
福田さんは、堂々とした風情で「SAGA」のテーマやあらすじを説明し、わたしは横で見て手慣れたものだなって思った次第です。
声優さんたちのいるブース。金魚鉢のなか、とも言いますね。
そこには、マイクが3本立っています。壁には大きなモニターがあります。
そして、スタッフがいる録音機材や調整卓、スピーカーのあるこちら側の部屋。
金魚鉢のこちら側は、バップの田村プロデューサー、エアーズの音楽プロデューサー藤田さん、ライターの両澤さん、音響監督の藤野さん、調整の西澤(規夫)さん、調整の助手さん、演出さん、わたし、福田監督です。
外の待合室には、クルーズの千田さんと声優のマネージャーの方々がいます。
挨拶後、アフレコのテスト、本番と時間は進みます。
フィルム(映像)は、線撮りと言って、カラーにはなっていません。
スケジュール的に、カラーに出来なかったのです。
心の重い、わたしでした。
しかし、声優さんたちは、自分のキャラクターを良く知っています。
サイバーフォーミュラAパート、アフレコ開始です。
聞いたことのある声が、ハヤト、あすかたちの声が、我々の部屋のスピーカーから流れてきます。
「サイバーフォーミュラSAGA」に『声』と言う命が吹き込まれていく瞬間に立ち会っていました。
第1回目のテストが終わり、演技の指示が入ります。
福田監督の演技への細かい指示、セリフの直しなど。音響監督の藤野さんからステレオ収録になるので、声が重なる部分は別々に録音するために、それぞれの声優さんに本線で録らず、2回目に録るなどの指示が入ります。
声優さんもご自身の台本に、諸々の指示をメモし、またセリフの直しなどを書き込みます。
また、声優さんたちも、互いのマイクへの立ち位置も決めていきます。
テキパキと進んでいきます。手慣れたものです。
わたしは、これらを見て、プロの仕事だと思うのです。
2回目のテスト。さらに、細かい指示出し。ついに、本番になります。
本番。ピリッとした緊張感が漂います。
本線を収録して、抜き部分の収録。
演技の録り直しだけでなく、テクニカルなリップノイズや台本のめくり音が入るなどのリテークなどがあると録り直しになります。
テキパキAパートが終わっていくのですが、やはり、TVシリーズからOVAをすでに2作経験している声優さんたちと音響スタッフですから、阿吽の呼吸のように進んでいきます。
藤野さんから「古里さん、何かありますか?」と問いかけられます。
わたしは、サイバーフォーミュラのアフレコ1年生ですので、何かを発見出来るほど、経験値もないし、何を話せば良いものやら状態です。
「……あ、はい、ありません」と答えるのが精一杯です。
Aパートの収録とBパート収録の間に休憩があります。
その休憩時間を使って、わたしは、各マネージャーさんたちと名刺交換大会です。
声優さんたちも、台本を見ていたり、隣の声優さんと談笑をしていたりです。
そこで、福田さんが声優さんたちに声をかけたりします。
ゲストの声優さん以外はみんな知った顔なので、Bパートのことで気になっている箇所を質問をしたり、「これ、いつ発売するの?」と問いかけられたりします。
福田さんは、わたしの方を向いて「古里さん、第1巻はいつ発売でしたっけ?」と振ります。
これまた、アタフタしながら答えるわたしです。
兎にも角にも、この日はずっとジタバタしていた気がします。
正直、この日の細かいところまで思い出せないのですが、でも、声優たちも気を使ってくださり、わたしに声をかけてくれた気がするのです。
声優さんの名前と役と声と色々覚えることが多いので、かなり大変なイベントデーだったと、遠い目になります。
ひとつ思い出しました。
ハヤト役の金丸(淳一)さんの第一印象です。
始めてお会いしたとき、背の高い方なので少しだけびっくりしました。
何せ、テレビ版のハヤトは14歳ですし、小柄です。
「SAGA」になるとハヤトも背丈は伸びていますが、でもリアルに考えればレーサーは軽い方がメリットですから筋肉は付けても体重は落とすのがプロだと思うのでやはり小柄だと思っています。※車重は軽い方がスピードが出ます。
なんてことをぼんやり考えてあるわたしの前に、笑顔の金丸さんが爽やかな声で挨拶してきました。
「金丸です、古里さんよろしくお願いします」。
月日が流れて、昨年2023年1月22日に池袋グランドシネマサンシャインで「サイバーフォーミュラSIN第3~5巻」の上映会&トークショーがあったので久しぶりにお会いしましたが、そのときも金丸さんの声は爽やか全開でした。
ニコニコしながら「古里さん、お久しぶりです。前にお会いしてから何年経ってるんだろう?」と、わたしも「さて?いつぶり?」と思い出せず、ふたりで笑ってしまうわけです。
金丸さんと話していると、少年の持つピュアさが出せる稀有な人だなぁ〜って思うことしばしばです。
第2話以降のアフレコでは、わたしも色々慣れていきました。
少しずつ、自分が感じたことから意見など言えるようになっていきました。
声優の緑川(光)さん、置鮎(龍太郎)さんとは、すにで、勇者シリーズのなか「勇者特急マイトガイン(以下、マイトガイン)」のアフレコで会っていました。
緑川さんは、「マイトガイン」の雷張ジョーを演っていて、ダビングにも勉強のためにと参加していました。わたしもそのダビングに行っておりましたので、挨拶して会話した記憶があります。
音響監督さんに、「新人の声優はダビング作業を見る、知ることが、大切な勉強になるので来なさい」と言われて参加したとのことでした。
どのテイクのセリフを使われているのか?効果音や音楽が入ることで、客観的に自身の声がどう聞こえるのか?など、テクニカルなこと、演技のことなど色々考えることが出来るようなのです。
そんなことを緑川さんと話した記憶がありました。
置鮎さんは、勇者ロボットをたくさん演っていました。
わたしに取っては、ハイネルの声と言うより、地球を守るロボの声でした。
勇者ロボと言えば、わたしにとって「エクスカイザー」なのですが、その声こそ速水奨さん。「サイバーフォーミュラSAGA」では、速水(奨)さんはシューマッハでありあすかのお兄さん役。わたしは、初めて人間の役をやっている速水さんを見ました。ちなみに、「ダ・ガーン」も速水さんが主役のロボットの声を演じています。わたしにとって、速水さんは勇者ロボそのものなのです。
いまでも、「サイバーフォーミュラSAGA」で出会った声優さんたちはどこかのアフレコ会場でわたしをみつけると声をかけてくれます。幸せなことです。
わたしは、声優さんも、一緒にアニメを作っている大切なスタッフとして、同じ釜の飯を食った仲間だと考えています。
「サイバーフォーミュラ」のなか、わたしの推しキャラは、ランドルでした。
そこで、声優の松岡(洋子)さんの声に惹かれるものがあります。
当時、松岡さんは「ゲゲゲの鬼太郎」で鬼太郎の声を演じていたのですが、その少年の声も素敵でした。
松岡さんには、後々「電童」では銀河の声、そして、「舞-乙HiME」でマリア先生を演ってもらいました。
一緒に仕事をやることで、例えば声優さんなら、声質、演技、素の声質や性格も分かると、尚更に「当て書き」が出来るのです。
サンライズでは、オリジナルアニメを作ることが当たり前と言うように育てられました。
そうなると、オリジナルキャラクターに、あの声優さんの声を入れたい、あの声優の普段の姿を知っているので、実は笑い上戸なので良く笑うキャラを演じてもらうのはありだよな、ってなるのです。
例えば、京都出身だから、京都弁で演ってもらうとかもありますね。
わたしは、以降、幾つかの企画、作品で「当て書き」風なことをやらせてもらいました。
さらに、キャラクターデザインにある顔と似た顔の声優さんをみつけて決めることもありました。顔が似ている、つまり、顔の骨格が近い、体格も似ているなどあれば、そこから出る声に違和感はないのではなかろうか?と考えるのです。
さらに細かく考えて、ハスキーボイスだとか、キャラクターの個性を踏まえてハマる声優さんの声をみつけることになります。
と言うことで、わたしは、演技をしていない素の声を聞きたいと思っていました。
ですから、声優オーディションでは、それぞれの声優さんの演技を始める前に事務所名と名前を言いますので、それらと実際のセリフまでの声幅を聞くことも多いです。
声優オーディションの話は、別なタイミングで書きます。
とある主人公のオーディションで、約50人ほどの声優さんの声がカセットテープに収録されており、それをずっと聞いて、ひとりに絞る作業をするのですが、これは、大変でした。
カセットテープは、CDと違ってチャプターが切られていないのです。
聞き直しがめちゃくちゃ大変なのです。
声優さん裏話。
アフレコが終わった後に、軽い打ち上げとして、食事会or飲み会を開催することがあります。そこで、メニューを頼むときに、わたしが叫んでもお店の人に声が聞こえないことが多々あります。
そうなると、声優さんがわたしがやりましょう!と言わんばかりに、「良い声」で店員を呼び止めます。良い声だけでなく、店内がガヤガヤうるさくても、めちゃ声が通るので店員さんの耳に届くのです。
うん、これは便利だ、と話すと、声優さん自身が、「そうなんですよ、古里さん!」と答えます。これは、一回だけでなく何度も経験しました。
これは、声優さんあるある、だと思うのです。
追伸:
YOUTUBE「ふるさとPアニメ道」もスタートしましたので、ぜひぜひチャンネル登録の上、ご覧くださいませ。
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🔻ふるさとP写真録:今週の一枚

古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。
1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』アソシエイトプロデューサーとして参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。
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