第30話:『2003年春企画書完成!サンライズ本社で上司への「舞-HiME」プレゼン終了、正式に制作に入ります!!』
2023年3月、「舞-HiME」の最新企画書が完成しました。
それは、サンライズ企画室の高野(日良)さんが見やすく、分かりやすい企画書を作ってくれました。いま見るとメインタイトルも違いますし、準備段階の企画書なので色々違いはありますが、でもコンセプトなどの根っこは一緒です。
物語の中身は、ライター吉野さんがどんどんブラッシュアップしています。
そのテキストを踏まえ、わたしと高野くんは企画書を読んでもらう方々にどう伝えると一番ベストなのか?と、つまりどんな色合いの企画書を作成するとベターなのか?と会議室で色々話し合いました。次のページを読みたくなる企画書を用意したいのです。
高野くんは、古里さんのやりたいことは何ですか?と質問します。
わたしは、それに一生懸命答えます。
高野くんは、この作品のテーマは?
意図は何ですか?と……。
畳み掛けるように、視聴者に伝えたいことは何ですか?と質問してきます。
そのやり取りから、高野くんが、これだ!と思う企画書を作りました。
※下記、一部抜粋となりますが載せます。
【TVアニメーション新番組企画】
・タイトル:「DIX.(ディス)~玉響のHiME~」
・ジャンル:美少女バトルロワイヤル
・ターゲット:中・高校生~20代前半の男性アニメファン
【物語】
・3百年に一度の、命を懸けた闘いが始まる!
逃れられない宿命を背負った10人の少女たちよ…生きる為に、殺し合え!
【企画意図】
・可愛いだけでは、強いだけでは、もう物足りない!
・萌えと燃えを共存させた女の子たちのシリアスな物語は、己の意思で明日を切り開く、新しいヒロインを描きます!
【企画のポイント】
・美少女同士が殺し合う激しいバトルアクション
・物語に散りばめられた謎
・バラエティに富んだコドク(蠱毒)の鬼 ※後のチャイルドとオーファンのことです
この最初の企画書では、美少女たちがバトルロワイヤルをやることをきちんと書いていました。都度書き直していった新しい企画書は、萌え系に見えるようにアレンジされて行きましたが、それには理由があります。
完成した企画書を手にして望みました。
来たるべき日、サンライズの大会議室で、企画プレゼンが始まりました。
今企画が通れば、晴れて予算が降りて現場で制作を開始することが出来るのです。
社長、専務、取締役、部長職がぞろりと並びます。
ちょっとだけ緊張!いや、それなりに緊張しました。
企画書を皆さんに配り、読んでもらってプレゼン開始です。
わたしが、内容を軽く口頭で補足説明をし、質疑応答となります。
ある上司から、バトルロワイヤル的な内容は、テレビ放送は大丈夫なのか?と質問がきました。絶対に来ると考えていましたので、「キターーー!!」なのです。
わたしは、女の子たちが直接戦うことはなく、彼女たちが使役するチャイルドと呼ばれるモンスターが代わりに戦うことになるので、問題はありません、と伝えました。
実は、この質問は、後の放送局でのプレゼン時にも局プロ(デューサー)にも言われました。
中学生、高校生の女子が戦うと言うことで、色々ブレーキがかかります。昨今良く言われるコンプラ(コンプライアンス)の心配ですね。
オリジナル物は先々の内容を詳しく見る(知る)ことが出来ないので不安になるのです。
漫画、小説だと本を読めば、内容が良く分かりますからね。
いわゆる内容次第では放送出来ないと判断されますので、そうならないように先に色々知っておきたいと考えるのが局のプロデューサーさんです。
わたしは、ライターの吉野さんにチャイルドと呼ばれるモンスターが代わりに戦うことをお願いしていたので、事なきを得ました。
チャイルドについては、わたしが昔に制作に参加した勇者シリーズにも起因します。
主人公の少年の指示で勇者と呼ばれるロボットが敵と戦う、そんなロボットアニメを作っていたわたしなのです。
コウタくんが「助けて!エクスカイザー」と叫ぶと、どこからともなく現れる勇者ロボですね。
あと、ウルトラセブンのカプセル怪獣も似た感じだと思っています。
ある種の代理戦争です。
「舞-HiME」は、敵は誰かが分からない、隣の友達かも知れない。
と言う、バトルロワイヤル物にシチュエーションが変わっても、わたしが培ってきたことは反映させることが出来る、そんなアニメ作りでした。
そして、わたしが所属する事業部の上司である内田(健二)さんが、「この企画について、何かあればわたしが面倒を見るので大丈夫」とその場で話してくれたのです。
聞いていたわたしは、「え?」と、心のなかでやばい、カッコいいとつぶやいたのは内緒です。
とにかく内田さんが、強く押してくださったので企画はOKになりました。
感謝しています。
さて、無事にプレゼンも終わり、廊下に出ましたら、吉井社長がそばに来てぼそっと「むずかしいね」と言いました。
「ん?どういう意味だ」と考えたわたしです。
物語作りがむずかしいのか?
売り方がむずかしいのか?
大変だね、の意味なのか?
内容がむずかしいの意味なのか?
確かに、分かりやすい勧善懲悪ではないし、……。
多分、言葉通りの意味なのだろうと思うのですが、わたしには、やるしかないと思っていたので、より頑張るしかないと心に決めるのでした。
スタジオのシナリオ打ち合わせの会議室で、小原監督、吉野(シリーズ構成)ライター、久行キャラクターデザイナー、谷口(悟朗)クリエィティブプロデューサー、バンダイビジュアル国崎プロデューサー、平山デスクたちに、本社上司へのプレゼンの結果「Goサイン」が出たことを伝えました。
これで、無事に予算が出るので、早急にスタッフ集め、シナリオ作成諸々を進めることを話しました。
わたしは、国崎プロデューサーと作戦会議を都度開いて、アニメの内容について細かく話し合いました。
国崎さんは、何が当時売れているのか?何が、お客さんの心に刺さるのか?
バンダイビジュアルの色々なタイトルの売れ行きもデータ化して、どのタイトルがどの年齢層に、性別は、など、何時間も話し合いました。
当然、各社のアニメタイトルの売れ行きも調べました。
その作品群から、売れる要素、売れなかった理由などを話し合いました。
プロデューサーとして、クリエイターに何を伝えて、どのようにテンション高めを維持していってもらえるか?なども話し合いました。
「舞-HiME」は、オリジナルアニメですので、いま手元にあるシナリオは、本当に面白いのか?お客さんへの訴求力があるのか?
自分の勘だけを頼りにするだけでなく、国崎プロデューサーの持つ知見、データを踏まえて客観的な目線で考えることもしました。
恋は盲目(例えがおかしいですが、舞-HiMEは好きなタイトルなので)ですので、どうしても近視眼と言うか狭く見てしまうので、常に立ち止まって確かめることが出来たのは、国崎プロデューサーのおかげです。
でも、逆に、勢いや熱が大切でもあるので、自分が感じたことを信じて走ることも良いことだと思っている古里もいました。
兎にも角にも、アニメの放送時期と放送局の選定、代理店探し、宣伝方法、スポンサーの確保、商品化についてどんな営業を行うとベストなのか?
本当にたくさん話し合いました。
と言うことで、具体的に、色々な会社のドアを叩くことになります。
様々な人に会っていくのですが、それは次回に書いて行きますので、よろしくお願いします。
PS
当時、サンライズ企画室の高野くんとは、後にEテレで放送した「ファイ・ブレイン~神のパズル」の企画書もわたしと高野くん、そして、新人ライターの3人で作りました。この先、どこかでその時の苦心談を書きますね。
ちなみに「電童」の企画書も作ってもらっています。
わたしが起業後、高野くんもサンライズを退社しているのですが、縁あって一緒に仕事をしたり、企画案を考えてもらったりしています。とても、ぶっ飛んだネタを出してくる、面白い思考の持ち主です。
※恋は盲目の意味:人間というのは恋に落ちてしまうと夢中になり、常識や理性を失ってしまうということを意味する。恋は盲目という状態になったならば、恋をしている相手以外が視野に入らなくなってしまう。
🔻ふるさとP写真録:今週の一枚
追伸:
YOUTUBE「ふるさとPアニメ道」もスタートしましたので、ぜひぜひチャンネル登録の上、ご覧くださいませ。
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古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。
1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』制作統括として参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。
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