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記事: 第32話:『舞-HiME、声優さんを決める日にちがやってきました』

第32話:『舞-HiME、声優さんを決める日にちがやってきました』

声優さんを選ぶには、いくつかのやり方があります。

ひとつは、オーディション。

次は、決め打ち、です。

 

オーディションは、ひとりのキャラクターに声優さんが50人とか集まることがあります。全ての声を聞いて決めて行くのですが、何日もかかることがあります。

「舞-HiME」は、キャラクターが多いので、その全てを決めるのに時間がかかりました。

 

ですが、声優さんの前に決めなければならないスケジュールがあります。

それは、音響監督のスケジュールなのです。

三間(雅文)音響監督のスケジュールを探りました。そこで、出てきたのは、2ポイントでした。それを踏まえて、声優さんのスケジュールも探ることになります。

 

「舞-HiME」の声優選びは、オーディションと決め打ちの両方でした。

当時、わたしも勉強のために深夜アニメ、特に女子キャラが多く登場する萌え系のアニメをたくさん見ました。そして、声を聞きました。

しかし、その声は、その作品のキャラクターの声なのです。

実は、オーディションの時に吹き込まれる声のなか、一番最初の自身の挨拶の声を何度も聞くことがあります。

「◯◯◯声優事務所(事務所名)の◯◯◯◯(名前)です。これから、◯◯◯◯のキャラクターを演じさせてもらいます」と言ってから、原稿に書いているセリフを演じることが多いのです。

この最初の挨拶、軽い自己紹介は、声優さんの通常の声、話し方になります。

この声質や話すトーンなどからセリフの差異、つまり演技幅なども知ることができる、聞くべきポイントです。

 

当然、演じているセリフを聞くことが大切なことなのですが、実は、普段の声を知っておくことも決める大きなファクターなのです。

と言うこともあって、実際に声優さんに会って、お話が出来るのは大きな決め手になります。それこそ、通常時の声、話し方を聞けることはとても有り難いのです。

さらに、佇まい、表情、何かしらの質問に対しての返事など、ほんの少しの時間ですが、その声優さんの性格などが垣間見れることは嬉しいのです。

 

「舞-HiME」では、ランティス井上さんのご助力があり、千葉(紗子)さん、清水(愛)さん、野川(さくら)さん、新谷良子さんに会うことができました。

いまになっても印象強く残っているのが、千葉さんです。

ランティスの会議室のなかで待っていた千葉さん、わたしはドアをノックして入って行くと、千葉さんしかおりません。

千葉さんは、壁側に立っていました。

その佇まいが、なつきみたいにクールで格好良く見えたのです。

「あれ?なつきがいる」と思ったわたしです。

確かに、さらさら系ロングヘアとともに、顔立ちなどもなつきと似ています。

井上さんもやってきて、紹介コーナー。

わたしは、「サンライズプロデューサーの古里です。実は、オリジナルアニメの企画をやっていまして……」と「舞-HiME」のタイトルは出さずに軽く挨拶し、お話をしました。

井上さんから、わたしと会う意味、いわゆる、オーディションの一環の意味を聞いていない千葉さんは「?」だったと思います。

10分くらいのやり取りでしたが、とても真っ直ぐで勘の良さを感じました。

ちょっと生真面目そうにも見えました。

それも何だかなつきっぽく感じたのです。

声のトーンも気持ち低めで、それも、なつきっぽかったのです。

 

わたしとしては、普通の声が聞ける、そして、10分程度の会話ですが、その声優さんの性格などちらりと見えるので、会えるなら、会わせてもらおうと思いました。

清水さん、野川さん、新谷さんは、歌の収録でスタジオに入っている時に、軽く挨拶をして声を聞きましたね。

普段の声と演じている声のトーンが近く感じました。

実は、顔の輪郭、背丈、体格などから声の響き方って変わります。

背丈の高い女性は、声のトーンが低めになりますし、背丈の小さめの方は声のトーンが高めになります。だから、アニメのキャラクターデザインと似ている背丈、体格、そして顔の輪郭があると、声もそれっぽくなるのかな?と考えています。

 

当然、お会いせずに、オーディションや音響監督のプッシュで決める場合もあります。

 

 

そして、前作「星方天使エンジェルリンクス」の李 美鳳(リ・メイフォン)役の柚木(涼香)さん、弥生ちゃん役の田村(ゆかり)さん。

「電童」の主人公北斗役の進藤(尚美)さん。「電童」「激闘!クラッシュギアターボ」「出撃!マシンロボレスキュー」に出演の根谷(美智子)さん。

「出撃!マシンロボレスキュー」のアリス&マリー役のゆかなさん。

「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」ブリード加賀役の関(俊彦)さんは、すでに良く知っている方であり、普段の声も知っているし演技幅もわかります。

 

特に、「電童」のときに進藤さんの出身が京都だと聞いて知っていました。お母様もお祖母様も京都の方で、ネイティブが故に静留をより深く演じてくれるのではないかなと思いました。あと、少年役の多かった進藤さんの普段の声も魅力的だと感じていましたので、落ち着いた女性役はハマる気がしました。ちなみに、「電童」の北斗って腹黒系キャラでもあり、それがまたハマる気もしまして、です。

 

そして、遥役として柚木さんの声質、ちょっと強気さが垣間見れる演技力、美鳳役のときの感じた超真っ直ぐで一所懸命さが遥ちゃんぽくなると思っていました。

 

さらに、静留と遥の関係値を考え、また声優のふたりの声質、性格など踏まえるとより面白い化学反応が起きると思っていましたので、スケジュールが取れることを願いましたね。

 

田村さんは、「エンジェルリンクス」の時は新人さんでしたが、声質にある種のヒーロー性を感じていました。先生役の碧ちゃんの持つ正義感がハマると考えました。

 

根谷さんのしっとりとした大人の女性を感じさせる声質は、保健室の先生役にぴったりだと考えました。

 

ゆかなさんは、「マシンロボレスキュー」でマリー先生役と生徒役のアリスと二役をやってもらっています。実は、本編でマリーがアリスを褒めることがあったのですが、その時のアフレコは別々に収録せず、両者のキャラをさらっと演じたのです。

終えたあとに、声優さんたちが「自分が自分を褒めている」って突っ込んでいたのですが、本人はケロッとお芝居ですからと言わんばかりに「何かありました?」みたいなリアクションでした。それを、見ていたスタッフ側のわたしたちは、演技力が豊かだなって思ったのです。

その記憶が強かったので、「舞-HiME」では、二三さんと真白さんの会話は続けて収録することが多かったですね。我々は、そのふたりの芝居を「ゆかな劇場」と呼んでいました。

舞台などでは、役者のことを知っている演出家、脚本家が脚本を書くことを「当て書き」と言いますが、「舞-HiME」でも若干名に当て書きをしているのです。

 

 

それ以外の声優さんは、オーディションもしました。

また、国崎プロデューサーが何人か候補を出して相談して決めたこともあります。

 

「マクロスゼロ」に出演していた南里(侑香)さんが、奈緒になりました。同じく、小林(沙苗)さんも晶くんになりました。

岩男(潤子)さんを決めたのも、国崎プロデューサーでした。

声を聞いて、あかねちゃんの持つ儚さを感じさせると思いました。

井上(喜久子)さんは、当時バンダイビジュアルの作品「おねがい☆ティーチャー」に出ていましたので、声、演技、癒やしの声優さんのポジション「お姉ちゃん」と確立していることなど知っており、紫子役に。

そして、能登(麻美子)さんの持つおっとりとした感じが雪之に合っていると。

 

ラスト、主人公の鴇羽舞衣役です。

わたしは、舞衣の声について迷っておりました。

悩んでおりましたら、国崎プロデューサーが、「中原麻衣」さんって知ってる?と聞いてきました。

名前は知っているし、また深夜アニメを見て勉強したときに声を聞いています。

国崎プロデューサーは舞衣役を中原(麻衣)さんにやってもらうのはどうだろう、と言います。

理由を聞きますと、名前が同じなので、ずっと、キャラクターを大事に、大切に先々まで思ってくれるのではないかな?と言います。

確かに。

声質、演技力は他作品を見て、問題ないと思いました。

わたしは、中原さんにはアフレコが始まるまでお会いしていなかったのです。

だから、第1話のアフレコは、どんな鴇羽舞衣が生まれるのか?がドキドキしながら立ち会いました。

舞衣は、ストーリー上どんどんひどい目に合うキャラなのですが、そんななかで腹を決めて前に進む勇気ある少女です。その潔さなど凄くリアリティを感じる演技を中原さんは見せてくれました。わたしは、オリジナルアニメの持つ先の展開がわからない面白さが表現できていると感じたのです。中原さん自身の持つバイタリティが出ていたのかな?って思ったりしました。

 

さて第2話では、静留と遥の掛け合いは、ニンマリとして聞いていました。

想像通りと言うか想像を超えて人気の出るふたりになると確信しました。

 

清水さんには、音響監督から可愛い声禁止令が出ました。

野生児でかなり男の子っぽさを持っているキャラではありますが、少年役ではないのです。

少女と少年の中間のような、でも決して可愛いだけの声ではない!みたいなことかなと思っています。

清水さんは、当時、叫びが多かったのでかなり喉を酷使したと思ってみていました。

他のアフレコがあるのに「ごめんなさい」と都度心のなかで謝っていました。

 

中原さんも千葉さんも、叫び声は大変だったと思います。

ロボットアニメの経験者の男性声優さんは、叫びは慣れていたりしますが、女性声優さんではその経験は少ないですからね。

でも、「GEAR戦士電童」に出る巨大ロボット電童のパイロットである北斗役の進藤さんは、叫ぶのがちょっと慣れていたのですが静留はしっとり情念系キャラなので、大声で叫びません。これまた反対の仕事なのです。あらら、でした。

 

アリッサ役の宮村(優子)さんは、わたしと音響監督で決めました。

12名のHiMEにコテンパンにされるキャラですので、とにかく精神的に強いキャラを演じてきた声優さんに頼みたい。でも、ベテランでなく若手でいないか?と考えたのです。

宮村さんは、わたしが制作デスク時代、「勇者警察ジェイデッカー」に出たレジーナ役がデヴュー作なのです。また、わたしが手掛けたテレビシリーズ「星方武俠アウトロースター」のエイシャ役で声、演技力は知っています。三間音響監督から宮村さんにオファーしてもらいました。しかし、当時第1子誕生のタイミングでしたのアフレコは随時参加ではなく、抜きの別録になりました。

ここで、深優役の浅井(清己)さんが、アリッサお嬢様と一緒にアフレコがやれないことを寂しがっていたのを思い出しますね。

 

男性声優においても、子安さんは、わたしとしてはデスク時代の「伝説の勇者ダ・ガーン」のセブンチェンジャー役から知っています。

凪役の石田(彰)さん、楯役の関(智一)さんは、サンライズ作品には縁のある声優さんですので、わたしの作品に出演していなくても、知っている声ではありますね。

 

当時、アフレコに来ている声優のマネージャーたちが、わたしに同じことを言うのです。

「古里さん、良くこのメンバーの声優が集まりましたね」と。

わたしの返答は、いつも同じです。

「まず、音響監督のスケジュールが先に決まってからなので、偶然の産物です」

確かに、主人公の経験者がほとんどですので、偶然としても、見えざる神の手のちょっとしたいたずらなのかな?と思うばかりです。

 

 

 

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古里尚丈(ふるさとなおたけ)

1961年5月3日生まれ。青森県出身。

1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。

2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』制作統括として参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。

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