第33話:『舞-HiME、声優も決まったのでついにアフレコが始まりました!』
「舞-HiME」第1話のアフレコスケジュールが決まりました。
フィルム(映像)は、オールカラーでアフレコに臨むことになります。
制作現場スタッフの力で、色が着いたのです。
徐々にカラーは減って行き、だんだん線撮(せんど)りと呼ばれる原画撮影も混じっていきましたが、中盤から最終回まで完全線撮(せんさつ)になりました。
アフレコスタジオは、「星方武俠アウトロースター」でも使用したアオイスタジオなので、場所を知っています。周りのどんなお店があるのか?も知っています。
さて、録音スタジオに行きますと、早くも声優さんは揃っています。また、マネージャーさんも数名います。
音響スタッフ、制作スタッフも揃っています。
いつでも、第1話のアフレコは緊張します。
アオイスタジオのなかの、一番広いアフレコ室を使うのです。
そこは元々はオーケストラ演奏もやるブースなのです。
とても広い室内に、椅子が並びます。
そのブース内に、声優さんが数名揃っています。
音響監督の三間さんの紹介で、わたしたちスタッフがなかに呼び込まれます。
そして、自己紹介も含めて挨拶も終わり、作品世界の説明もして、通常のアフレコに入っています。
淡々と業務として進んで行きます。
わたしは、ついに始まった!と、緊張もありますが、ここから放送に向けてのスタートだと強く感じました。
第1話は、出演者は少なめですが、第2話以降は、15人以上になることが多いです。
20人を超えるときもありました。
ですから、椅子の列は1列ではないのです。
マイクは3本立つことが多いです。調整卓によってはマイクが4本立つこともあります。
ちなみに、「舞-HiME」は3本です。
いま、当時のアフレコ風景の写真をチェックしました。
写真を見ると声優さんが20人くらい見えますが、隠れて見えない人もいるので、もう少し多いのかも知れません。しかし、何話のアフレコなのだろう?
良く見ると、前列の端っこに中原麻衣(舞衣)さんを中心にして左右に、千葉紗子(なつき)さんと清水愛(命)さんが座っています。
さらに前列には、ゆかな(真白&二三)さん、石田彰(凪)さん、関俊彦(黎人)さんたちがいます。
後ろ列に、柚木涼香(遥)さんがいます。
これは、セリフ量が多い方が前列で、少なめの方々が後ろにいるって感じです。
セリフが多い人は、マイク前に行く回数が多いので、マイクに近いところにいる必要があります。
さて、いつもアフレコ風景を見て思うのは、声優さんによって、行くべきマイクの場所が決まっていること、そして、その場所まで歩いて行くことになるのですが、足音は出せませんし、服などの衣擦れ音も出せないのです。
後列にいる声優さんたちが、マイク前への移動距離もあるのでよりしんどいだろうなって思うばかりです。
当然、アクセサリーなどの音も出せないので、皆さんチャラチャラと音の鳴るもの身につけておりません。
アフレコ台本のめくり方も音を出さないようにします。
これらは、プロの技として身につけているんですよ。確かに、雑音が出るとNGになって、やり直しになりますので、皆さん気をつけています。
当時は、DVDに映像を収録して、台本とともに声優さんに数日前に渡しています。
ですから、予習して来ます。
「舞-HiME」のアフレコは、午前中のスケジュールでしたので、朝10時に集まり、挨拶のあとにテストが始まります。
第1回目のアフレコは、テストとして、声優さんたちが考えてきた演技プランで声を出します。
そこで、声優さんの演技を聞いた演出家、監督、プロデューサーから、お願いや分かりにくいカットの説明などがあります。
音響監督がそれらの意見をまとめて、指示を出します。
専門用語のようなセリフには、イントネーションや語尾を強めて欲しいなどの指示が入ります。
第1話では、それぞれのキャラクターの捉え方が定まっていませんので、声のトーン、強さ弱さ、高さ、低さ、抑揚など、調整のための指示が加わります。
あと、キャラクターのバックボーンの説明をしたり、置かれている立場の説明をしたりとアフレコ台本に書いていないことも伝えていきます。
また、遥のように自信たっぷのあるキャラクターなのか?
雪之のように、自信のない弱気のキャラクターなのか?で演技プランが決まっていきます。
舞衣が時折発する「はい~~~!!」は、何度も演技をしてみて、そのなかから、良さげなのを選んでいきます。
でも、話数が進むことで、中原(麻衣)さん自身がパターンを掴んで、さらにそれを進化させて行くこともあります。
基本、主人公の鴇羽舞衣は、何も知らないキャラクターであり、起きている事件に翻弄されます。だから、あまり物語の先のことを教えないことが多いです。
逆に、玖我なつきは全てを知っているわけではないですが、ある程度の謎を知っているキャラクターですので、そのために必要なことを教えることもあります。
美袋命は、田舎(野生)育ちの中学生ですし、戦うことを嫌だと思っていません。相手が強いとちょっと燃えるタイプでもありますので、第1話ではなつきと戦ってしまいます。
そのふたりを見て、何が起きているのかチンプンカンプンの舞衣と言う図式なので、その関係と裏設定など必要なら話していくこととなります。
また、清水(愛)さんには、音響監督から可愛い声禁止令が出ました。
命は、中学生の女子であっても、野生児の少年のような設定なので、可愛いだけではなくちょっと少年っぽさも必要になります。
でも、男の子役でもないのでそのバランスが難しいのです。
時折、萌え系の可愛い声で話すと、「はい、清水さん可愛い声禁止だよ」と言う音響監督の声が出るのです。
第1話、なつきと命のバトルがあります。
戦いのたびに大音量の叫び声になります。
命はその頻度が高いのです。
声がかすれると言うか、喉に負担がかかっていただろうなと、第1話からずっと思っていました。
ちなみに、先日の池袋のイベントでも、清水さんがかなり辛かったと話していました。
本当に、本当にごめんなさい。
第1話は、フェリーが舞台なので出演者が限られているので、声優さんの人数は少ないです。第2話以降は学園が舞台になるので、声優さんがズラリと揃いました。
遥と静留のやり取りなどが始まります。
わたしが想定していた、柚木(涼香)さんと進藤(尚美)さんの声質のぶつかり、また、遥と静留の持つテンションのコンクリフトから生まれる演技のひとつのゴールがとてもいい感じとなりました。
わたしが初めて聞く声、演技の声優さんがたくさんいます。
また、2~3年くらいの新人さんが多いのも「舞-HiME」の特徴です。
さらに、オリジナルアニメが初めての声優さんもいます。
ブリード加賀役の関(俊彦)さんは、「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」でオリジナルアニメを良く知っているので、次回のストーリーが分からないことを楽しんでいました。
本番では、セリフがかぶるところは、別々に収録になります。
その理由は、ステレオで左右に振り分けることになるからです。
もし、ふたりが右と左から中央に向かって歩いてきているカットだとすると、声も絵に合わせて少し移動させます。
テレビは、映画ほど声の移動は少ないのですが、でも左右に拡げることはあるので、やはり、別々に収録することになります。
ちなみに、昔は、モノラル音声でしたので分けて収録することはなかったです。
声優さんたちは、本番では台本のめくる音も出さないにします。
マイクまで歩くときの足音も出しません。
テスト後に音響監督から演出の指示を受けて、芝居を変えて演技をします。
1回でOKになることもありますが、全部終わってから改めて指示が出て、2回目、3回目と収録することもあります。
同じセリフを、10回とか20回言うこともあります。
やっと、OKが出てホッとするのですが、当然声優さんが一番ホッとするのですが、我々スタッフも緊張して聞いているので、「ふ~」と言った息が漏れる場合もあります。
第3話では、舞衣のバトルがあります。
逃げるときの悲鳴だったり、決心して戦うのときの声だったりと、第1話の命のときに感じた喉を痛めるようなことになります。
ここでも、ヒヤヒヤするわたしがいます。
以降、どんどんHiMEバトルが始まって行くので、それぞれの声優さんたちが、大音量の声を出すことになります。
次の現場ですぐにアフレコがある人たちは、しんどかったと思います。
ごめんなさい。
本編Aパートが終わり、休憩タイムがあって、Bパートの収録になります。
その休憩タイムに向けて、轟宣伝プロデューサーが常に美味しいお菓子など用意するのです。これは、声優さんには大受けでした。お菓子でなく、おにぎりなどのときもあります。
「舞-HiME」のアフレコは午前中から始まるので、お腹が鳴ってマイクが音を拾うときがあるのです。だから、お腹に入れるお菓子や軽食があるのはとても助かるのです。
わたしは、轟さんの美味しいものセンサーにいつも感服していました。
お店に行って買ってからスタジオに来るので、本当に大変だったと思います。
いつも、本当にありがとうございました。
さらに、美味しいものを口にするとみんな笑顔になります。
現場が和やかに進んで行ったのも、轟さんのおかげです。大感謝!!
アフレコは、だいたい14時に終わります。
少し早めに終わるときもありますので、ランチタイムとしてスタジオの近くの喫茶店で食事orコーヒータイムのときもあります。
声優さんが7~8名の参加になるのですが、ストーリーに対しての質問や、今日の演技はあれで良かったのか?など話が飛び交います。
皆さんの趣味嗜好や考え方などが垣間見えるときがあるので、今後のストーリーや次のアニメに向けての当て書きのネタにしたいと考えて聞いていました。
これらは、さすがにメモを取ることも出来ないので、すぐに忘れてしまうのですが……。
いまでも何となく覚えているのは、すごく勘の良い清水愛さんです。
今後のストーリー展開を話すのですが、それが的を射ており心のなかで狼狽えることがありました。
進藤さんは「電童」以降、わたしのアニメに出ているので、古里さんのアニメは意地悪な展開が多いので、素直に進むとは思えない、と都度言われていました。とほほ。
そして、わたしが、いまでも思い出すことがあります。
あかね役の岩男(潤子)さんのことです。
第8話のお話は、「舞-HiME」の転換点のひとつです。
ここで、バトル後に自分が死ぬのではなく、想い人が死ぬと言うことが開示されます。
とても、重要な話数です。
さらに、あかね役の岩男さんの恋人のカズくんが消えていく様を見たあとの鬼気迫る演技。
迫真の演技力が卓越しています。
本当にお願いして良かったと思いました。
しかし岩男さんは、第9~12話の出番がありません。
第8話のアフレコ後に、第9話のアフレコ台本にあかねの出番がないことを知った岩男さんが、わたしのところに来て一言。
「わたし、まだ出番ありますよね」と。
背筋にヒンヤリとした何かを感じながら「は……い」としか言えなかったのです。
わたしの心のなかで「13話と最終回には出ます……」とつぶやきました。
その後、第13話でアフレコスタジオに来た時に、笑顔のなかにとてもクールな瞳があり、蛇に睨まれた蛙ってこんな気分なのかな?と考えたわたしです。
以降、「舞-乙HiME」にも出てもらっていますが、ご自身のライブを観て欲しいとお誘いくださり、行った記憶もあります。
11月3日の新文芸坐のイベントで、静留役の進藤さんも「舞-HiME」の現場に行くのはしんどかったと言ってました。そんな思いを抱かせていたんだと、あの場で知りました。
実は、わたしは、他の声優さんにも最終回を迎えたあとに、「舞-HiME」の現場に行くのは、お腹が痛くなり辛かったと言われました。
実際、マイク前に立っている姿を思い出すとそんなことを微塵も感じさせずに演技をしていました。
色々考えて出した答えに、わたしはキャラクターがより魅力的になっていると感じていました。
その声優さんには、「舞-HiME」のあとも何度か出演してもらったいるのですが、改めて素晴らしいな演技をする方だなって思った次第です。
「舞-HiME」に出ている声優さんは、当時2~3年くらいの新人さんが多かったので、ご自身のスキルを最大限に出してくださって演じて、キャラクターに声と言う命を吹き込んでくれていたのだと思うのです。
とても、素敵なキャラクターが生まれた現場に立ち会えました。
ありがとう。
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古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。
1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』制作統括として参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。
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