第39話:『GEAR戦士電童、変化球のロボットデザインをいただきました』
1999年当時、「GEAR戦士電童」の企画が動くことになりました。
男玩(男児玩具)連動企画、ターゲットは幼稚園から小学1~3年生中心です。
タイトルも、何も決まっていない時期です。
さて、どんな仮名が付いていたのか?を思い出せずにおります。
バンダイ側からいただいたイメージボードと玩具コンセプト案。
アイデアデザインラフを描いていたのが、メカデザイナー「阿久津潤一」さんです。
以降、「舞-HiME」「舞-乙HiME」「アイドルマスターゼノグラシア」「クロスアンジュ~天使と竜の輪舞」などでも、メカデザインを担当してもらっています。
阿久津さんとの出会いは、この「GEAR戦士電童」でした。
デザイン案を何種類も、何十枚も描いていました。枚数、そのボリュームに圧倒されました。
ちょっと宣伝になりますが、2020年秋に発売したムック本「阿久津潤一デザインワークス画道」(ホビージャパン刊)に上記に書いた「GEAR戦士電童」「舞-HiME」「舞-乙HiME」等々のページもあります。カッコいい「ガンダム」もたくさん描いています。
「電童」は、腕脚に付いているタービン(タイヤ)がグルグル回る、そんなロボットです。これを、最初に見たときは、「唖然」でした。
正直、困ったし、弱ったし、これを格好良く見せて活躍させるのか?と……。
かなりハードルの高いデザインだなって思いました。
福田監督に見せたときも、「困ったね」のリアクションでした。
胸にライオンもないし、変型もありません。子供に訴求出来るアイテムが少ないのです。
さらに、辛かったのは、電童1体で行くと言われたことです。
つまり、玩具は「電童だけしかない!」と言うことです。
当時は、すでに「ポケモン」がありました。
アイドルグループとして「モーニング娘。」が出てきて、5人から8人に増えたあたりです。
時代は、単独のひとりアイドルが減り、グループ売りになっていくのだろうと思わせるタイミングでした。
そんなある意味多様化の時代に、単品で行くのは、相当にしんどくなると思ったのです。
「戦隊シリーズ」は昔から人数が多いし、女子向けとして「セーラームーン」もすでにありました。
時代の要求に反する、確かに、逆張りは男気を感じますが、でも、実際ハードルの高さを感じました。
そんな時代でしたので、わたしも、福田監督も、バンダイに商品体数を増やしましょう!と、色々アピールしました。
後に「凰牙」が増え、「レオサークル」や「ユニコーンドリル」などの「データウエポン(武器&ペットロボット)」も増えていきました。あ、でも、データウエポンはもっとたくさん増える予定でしたが、大人の事情で「超獣王 輝刃(キバ)」に統合されて、以上終わりになりました。阿久津さんは、データウエポンも色々デザインを描いていましたので、活躍させられなかったのは残念です。
そして、時代を感じさせる玩具として、「ギアコマンダー」と言う電童を動かすコントローラーも生まれました。
この「ギアコマンダー」は、電子デバイスとして、当時の携帯モチーフです。ちょうど、携帯が小型になっていき値段も下がり、通信料も少し下がって、一般の人々が使うことのできる時代でもありました。ちなみに、スマホはありません。
大人の真似をしたい子供たちに、大人の世界で流行りつつあるデバイスをモチーフにして玩具化はありです。
ある意味、ラジコンの要素も持たせた電子デバイスにコマンドを打ち込むことで、それが「電童」を動かすことになる、そんな玩具でした。
これらのメカデザインを、阿久津さんが色々なアプローチでデザインしてくださいました。
受け取った我々制作サイド、クリエイターは、どう見せると格好良くなるのか?
どんな使い方をするのがベストなのか?
色々考えました。
福田監督は、「電童」をふたり乗りにしたいと発言しました。
理由は、ひとりで考えて、答えを出して行動するより、となりにいる友達、仲間できちんと考えて答えを出すのがベストと考えたのです。
特に「電童」は、兵器です。
巨大な力を持っている兵器を、たったひとりの考えと行動に任せるのではなく、違う考えを持つふたりが話し合って答えを出して前に進む、そんなアニメにしたいと考えていました。
だからこそ、「凰牙」はひとり乗りになっています。この「凰牙」は敵側と言うか、ライバルと言うか、の立ち位置として主人公たちの前に立ちふさがります。
後半、主人公のひとり銀河が「電童」に乗り、もうひとりの主人公の北斗が「凰牙」に乗る話数もありました。この場合、すでに銀河と北斗が関係値が深まり、距離も縮まり、となりに座っていなくとも色々通じているニュアンスなわけです。
でも、きちんとラストでは、銀河と北斗は電童にふたりで乗ってガルファ皇帝と戦うのです。
「新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA・SIN」で、レースシーンやマシンの作画監督(通称:作監)をやってもらっているアニメーター重田(智)さんにアイデア出し、アクションポーズ、アニメ用の設定描きをお願いしました。
重田さんは、後に「機動戦士ガンダムSEED」シリーズでもメカ作監をやっています。
そう、重田さんが描くロボットは格好良くなるのです。
なんでしょう。
美形になると言っても良いかも知れません。
顔もだし、スタイルも、アクションポーズも、格好良いのです。
勇者シリーズをやっていた頃、メカ作監として、ロボットに作監をする服部(憲知)さん、大張(正己)さん、山根(理宏)さんたちアニメーターがいます。その方々が、エクスカイザー、ファイバード、デッカードの顔を描くと美形になるのは経験していました。
ですので、電童も同様で、重田さんが描くと顔は美形になり、アクションポーズも格好良くなるのですが、でも、やはり、脚に付いているタービン(タイヤ)がグルグル回って動き回るのは、かなり変化球となりそれこそギャグの手前であり、格好良いが攻めぎ合うシーンになっていると思います。
でも、それこそが、見せ場なんでしょうね。
さて、大切な物語をどうするのか?です。
前、「舞-HiME」のときに書いたように、ロボット物、アクション物などでとても大切な要素は、「敵のあり方」だと思うのです。
「舞-HiME」は、敵はとなりの友達と言うことで、バトル・ロワイアル形式にしました。でも、最後に主人公たちが倒すべき存在は用意しています。
そうなのですが、巨大な兵器であるロボットに相対した敵をどうするのか?誰にするのか?です。
色々考えました。
福田監督は、文明の進んだある惑星の自然や諸々を管理するコンピュータが出した答えとして「自然を管理するには、一番いらないのは人間だ」と判断して、「星々の人間を滅ぼしていく狂ったコンピュータが敵」としたアイデアを出しました。
でも、これって、人間が色々な管理をコンピュータに任せてしまったことに起因し、コンピュータが悪いわけでなく、結局悪いのは人間だよなってことになります。
そんなメッセージも、福田監督のなかにありました。
裏設定として、後々に書いた小説があります。
単行本「外伝 GEAR戦士電童 天空の乙女蒼天の騎士」(集英社スーパーダッシュ文庫刊)で、シナリオライターの吉野弘幸さんに書いてもらいました。ライター吉野さんはアニメ本編でも脚本を書いてもらっています。
北斗の母親ベガの子供時代の話。「凰牙」の乗り手であるアルテアの少年時代、敵の存在など過去のことが分かる物語を書いています。
当時、この小説をベースにしたOVAアニメを作りたいなって考えたことがあります。
いま思い出しても、とても良質なSFファンタジーの仕上がりになっていると思います。
もし、当時気が付かず読んでいなかった電童ファンがおりましたら、是非読んでもらいたいのですが、さすがに25年近く経ったいま、手に入らないですよね。
改めて、「GEAR戦士電童」のことを思い出してブログ原稿を書いていると、ふと思うことがあります。
第1話の物語は、敵が地球に攻めてくるので、子供たちを護るためにロボットが動き出しコクピットに招き入れて戦うことになるのですが……。
これって、ある意味、「機動戦士ガンダム」のアムロ、「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」のハヤトなどがロボット(マシン)に乗ると言う始まりは同じだと思うのです。
ですので、「GEAR戦士電童」は、サンライズの色々な作品にある巻き込まれ型主人公の物語となります。
ロボットにどうして乗れるのか?
ロボットをどうして動かせるのか?
ここには、血筋とかが起因するのですが、これも、ガンダムを作っている側にアムロの父親がおりますし、アスラーダもハヤトの父親が絡んでおります。
と言うことで、「GEAR戦士電童」はとってもサンライズの作品の系譜にある、サンライズDNAを持ったアニメなのです。
「電童」のアクション担当として銀河がいるし、血筋担当として北斗がいる、このふたりでそれぞれを担当しているし、ダブル主人公なのが、面白いポイントだなって思っています。
わたしは、「新世紀GPXサイバーフォーミュラSIN」で、ハヤトと加賀のふたりによりスポットが当たった物語を経験しているので、ダブル主人公ってあるよなっていつも思って携わっていました。
だからなのか、「機動戦士ガンダムSEED」が始まり、キラとアスランのダブル主人公をテレビで観たとき、ダブル主人公をより極めて行っている福田監督に感嘆しました。
「GEAR戦士電童」以降、オリジナルアニメをたくさん企画制作したのですが、ダブル主人公は……いないです。
3人主人公の「舞-HiME」「舞-乙HiME」はありますね。
あ、もしかすると「ファイ・ブレイン~神のパズル」は、主人公カイトとライバルで裏主人公としてルークがいましたね。でも、敵味方なのでちょっと違うかな。
それと、「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」がダブル主人公だったのかも!
オリジナルアニメの場合は、主人公は監督の思考・哲学などが反映されることが多いです。
ダブル主人公の場合は、監督のなかにある諸々を半分に振り分けることになるのしら?
いまになって、疑問になりました。
でも、きっとそうなんでしょうね。
それを、各ライターさん、我々プロデューサー、キャラクターデザイナーなどが足したり、引いたりして補足や削除などして磨いて行くのだと思うのです。
この原稿を書いていて、課題がひとつできました。
よし、今後考えるぞ!
🔻ふるさとP写真録:今週の一枚

追伸:
YOUTUBE「ふるさとPアニメ道」もスタートしましたので、ぜひぜひチャンネル登録の上、ご覧くださいませ。
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古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。
1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』制作統括として参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。
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