第40話:『GEAR戦士電童、子供向けアニメは本当に難しいです』
1999年当時、「GEAR戦士電童」の企画が動き、ロボットデザインをもらい、そして、メインスタッフも決めていきました。
シリーズ構成の両澤(千晶)さんは、OVA「新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA・SIN」でシリーズ構成&脚本を担当しましたが、「GEAR戦士電童」はテレビシリーズですので、初挑戦となります。
各話ライターとして、後の「舞-HiME」「舞-乙HiME」でシリーズ構成を担当してもらう吉野(弘幸)さんが参加するのですが、実は、この「GEAR戦士電童」はデビュー作となるのです。
新人ライターは、中盤から参加の浅野(智哉)さん、木村(暢)さんの2名も加わります。
他に、数名の中堅のライターにお願いしました。
吉野さんは、SFテイスト、ロボットバトル、ミッションなどが上手です。
外池(省二)さんは、「シティハンター」のシナリオを書いている方なので、ちょっとコメディ色濃いめが得意です。
小林(靖子)さんは、戦隊シリーズや仮面ライダーシリーズなど特撮物が得意です。
あみや(まさはる)さんは、ぶらざあのっぽ出身でコメディ色のあるものが得意かなと思いつつも、勇者シリーズの各話シナリオも書いているので勇者テイストは分かっている方となります。
そして、後半は、新人ライターである、浅野(智哉)さん、木村(暢)さんにも参加してもらっています。浅野さんは、「GEAR戦士電童」の小説を書いてもらっての参加です。ちなみに、いま小説やエッセイ、ビジネス本など書いています。
木村さんは、なんと、わたしが制作デスク時代に、制作進行だった後輩なのです。後に、シリーズ構成などたくさんやっています。
と、バラエティ豊かなライターに参加してもらいました。
わたしも、ここでテレビシリーズのシナリオの全体構成の考え方とその方法論、各キャラクターの設定(性格)作り、各話数のシナリオの構築として、プロットから初稿シナリオ、修正しながら改稿を重ねていき決定稿までの進め方を覚えました。
すでに、「星方武俠アウトロースター」「星方天使エンジェルリンクス」のテレビシリーズを2作担当していましたが、プロデューサー1年生、2年生時代は、詰め込みばかりで、じっくりと考えて、頭に染み込ませていくような覚え方はできなかったのです。
プロデューサー5年生時代の「GEAR戦士電童」は、ホップ・ステップ・ジャンプでもないですが、きちんと理解しながら覚えたことを試したり、結果を見てアレンジしたり、成功と失敗をきちんと研究してわたし自身のノウハウにしていけた時代でもありました。
さらに、さらに、わたしの経験のなかで初めての挑戦として、「GEAR戦士電童」は、銀河と北斗と言うふたり主人公は、色々な意味で難解でした。
これが、思った以上に難しいのです。
それぞれのライターさんたちが本当に苦戦していました。
でも、オリジナルアニメの面白さや醍醐味を感じながら書いていましたし、わたしも、それを感じていました。
福田監督と両澤さんのなかでは、きちんと銀河と北斗のキャラクターが出来上っていて、わたしはそれを具体的に引っ張り出したいと思って会議に参加していました。
正直、各ライターの方々にうまく伝わることもあれば、会議をより混乱させてしまうような、失敗したこともありました。
当時考えたのは、本来プロデューサーは、シナリオを読んでジャッジをすると言うことは、ライターさんのようにシナリオを書けないと駄目なのではないか?と思うのです。
となると、わたしは書けませんのでヤバいわけです。
色々ジレンマがあります。
でも、わたしがシナリオを書けたら、ライターさんに頼む必要がなくなるので、それはそれで面白くないと思うので、書けなくても良いのかな?と考えたりしました。
改めて、プロデューサーとしてやるべきことは何なのか?を書きます。
我々プロデューサーが決めることはアニメを見る視聴者のターゲットが誰であるのか?です。
幼稚園までであれば、1話完結でコメディ要素が多めとなります。
ある種、分かりやすさが必要になります。
しかし、小学1年生から3年生が中心で、可能なら小学生全般と言うターゲットの「GEAR戦士電童」となると、やるべきことはロボットの電童の活躍、基本は1話完結ですが10%くらいにドラマ性(エモーション)を後ろ側に敷くことになります。
「アクション・コメディ」と「エモーション」の比率で、子供向けターゲットであっても、より幼い3~6歳代をねらうのか?
小学生低学年をねらうのか?小学校中学年から高学年をねらうのか?で、そのバランスが大きく変わります。「エモーション」の部分の比率を強めて行くことで、ターゲットが高まり大人向けになっていきます。
と言うことで、企画のターゲットはとても重要なファクターなのです。
兎にも角にも、キャラクター生まれてからどう生きてきたのか?のリアリティが重要です。
過去の生き方があってキャラクターの人間性、心に持っている哲学、生き様が生まれる思うのです。
まず性格は?家族構成は?どんな町でどんな友達がいて、何を好きで、何が嫌いで、とオリジナルアニメの場合、出てくるキャラクター全てを考えないといけないのです。
さらに、視聴者である子供たちがわかるように考えないといけません。
例えば、小学1年生は7年しか生きていません。小学3年生で9年です。
大人が知っていることを知らないことが多いです。
子供の目線で子供の持つ感覚に的を射ないといけないのです。これが、本当に難しい!!!
小難しいセリフは駄目です。
腹芸などもわかりません。
でも、純真無垢な子供だからこそ伝わってしまうこともあります。
色々な意味で真摯に立ち向かわないといけないのが子供向けアニメだと、考えました。
わたしの頭のなかでは、子供向けアニメ作りはとんでもなく難しいということを再認識、頭に叩き込んだそんな時代です。
上記のことを踏まえて、さらに大切なことは、それぞれのキャラクターの行動原理(動機)です。
そして、そのキャラクターのゴールです。
例えば、復讐を与えられている主人公パターンとして、なぜ復讐を考えているのか?その理由があることで、より強い行動原理(動機)が生まれます。
大切な恋人が敵の手に落ちたとしたら、その恋人を取り戻すことが行動原理(動機)になります。また、ゴールは恋人を取り戻して平和な生活を取り戻すためとなります。
でも、それに対して、敵側の障害があればアクションが生まれ、主人公が弱いとするなら葛藤も生まれて、何かしらのミッションをこなすことでロボットが手に入るなどのご褒美もあり、さらなる戦いの物語になっていくかも知れません。
銀河の行動原理(動機)とゴール。
北斗の行動原理(動機)とゴール。
ベガ(織絵)さんの行動原理(動機)とゴール。
渋谷長官や吉良国さんの行動原理(動機)とゴール。ちなみに余談ですが、Dr.井上は、バンダイの「GEAR戦士電童」の担当さんの名前からいただきました。
敵側アルテアの行動原理(動機)とゴール、と、決めることばかりです。
でも、これらが決まらないと、何となくふんわりとしたキャラクターにしかなりません。
特に、数名のライターがバトンを受け取って書いていくことだと、話数ごとに性格が変わってしまい、キャラクターがバラバラになってしまうでしょう。
行動原理、細かい設定などが決まっていても、各話ライターの持っている個性が加わることはありますので、それはキャラの幅と言うことになります。子供向けアニメの場合は、その幅の持つ意外性が楽しかったりしますので、どこに正解があるのか?ではあります。
プロデューサーは、それらを拾えるように、アンテナを張っておく必要があると思うのです。
シナリオ会議中対面にいる両澤さんが、わたしがシナリオを読んでちょっと悩んでいると「古里さん、何ページで引っかかっています?」と問いかけてきます。
「え~と、○ページの○行目の北斗のセリフが何だか、違う気がして」と言うと、「はい、わかりました。そのシーンは直すので、それを読んでください」と言うのです。
そして、改稿されると、わたしの悩みはなくなります。
そのシーンにいるそれぞれのキャラクターの会話がはねており、生き生きし、北斗の居方も納得のいくものになり、そこでのセリフのやり取りが自然になっているのです。
そのシナリオのなかに、北斗が生きているのです。
セリフひとつが間違っているのではなく、シーンの構成やそこに登場しているキャラクターたちのやり取りも変更することで、視聴者である子供たちに届く内容になっていたり、バックボーンも納得のいくものになっていたりします。
このようなことは何度も何度もありました。
わたしは、その答えの出し方まで到達していませんが、キャラクターへの違和感は感じ取ることは出来るようになりました。
両澤さん、あの時のやり取りは、とても楽しかったです。
わたしにとって、両澤さんは先生のような存在なのです。
実は、これ似たようなことは、「舞-HiME」での吉野さんでもありましたし、また、「ファイ・ブレイン~神のパズル」でも佐藤(順一)監督や関島(眞頼)シリーズ構成でも似たことが何度もありました。「古里さん、いまどのページで悩んでいます?」と。
いまでも思い出すのは、毎週あるシナリオ会議のことです。
長いときは、てっぺん超えでした。
午後13時とか14時から始まって、24時までかかることがあるのです。
何せ、4本とか一気に打ち合わせをしますので、ひとり当たり2~3時間かかるとあっという間に12時間過ぎていたりします。
最近のシナリオ会議は、4~5時間で終わるのですが、それはライターが少なくシリーズ構成がひとりで書いていたり、計2名で書いていたりするからですね。
各話バラバラで、4~5名のライターが書いていると、どうしても、最初から最後まで参加する監督、シリーズ構成、プロデューサーはへとへとになります。
あ、いまはリモート打ち合わせも多いので、電車移動がないので身体の負担は減りましたが、会議室でリアルにやる打ち合わせでは、他愛のない雑談から新しいアイデアが生まれることがあるのですが、リモート会議は雑談がないので残念ではあります。
だからこそ、1999年から2000年のあの時「GEAR戦士電童」を経験していないと、後の「激闘!クラッシュギアターボ」「出撃!マシンロボレスキュー」は生まれません。
また「舞-HiME」「舞-乙HiME」に行き着いていないと思うばかりです。
最後に、「GEAR戦士電童」の第1話の絵コンテ・演出は小原(正和)さんです。小原さんとは、「新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA」からの付き合いではありますが、でも、この「GEAR戦士電童」の第1話をやったからこそ、「舞-HiME」の監督起用になったこと否めません。バトル、アクションに愛があると言うか、尚更にサンライズぽいテイストが満載なのがわたしが、小原さんを良いなあって思ったのです。
🔻ふるさとP写真録:今週の一枚

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古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。
1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』制作統括として参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。
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