第43回:『GEAR戦士電童、「声」という生命(魂)をいれる声優さんの裏話です』
キャラクターが生まれ、シナリオ、絵コンテ、原画・動画、仕上げ、背景、撮影をやって編集し第1話が完成します。ここで完成した映像は、リテークも残っています。間に合っていないカットは線撮(モノクロ)になっています。ただし、「GEAR戦士電童」の第1話は、ほぼほぼオールカラーだったと思います。
編集が終わると、アフレコが始まります。
アフレコに必須なのは声優さんです。
と言うことで、声優さん選びのことを書きます。
重要なのは、主役の銀河と北斗の声優を誰にするのか?です。
音響監督は、「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」の藤野(貞義)さんです。
まず、音響について、声優さんのこと、BGMメニュー作成のこと、アフレコ・ダビングスケジュールのことなど、藤野音響監督に色々相談しました。
そこに、福田監督からのオーダーも伝えました。
ベガ(織絵)は「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」あすか役の三石(琴乃)さん、渋谷長官は「魔神英雄伝ワタル」シバラク先生役の西村(知道)さんにお願いしたいとなりました。
三石さんはあすか役として、わたしも何度もアフレコに立ち会っていますので演技幅、声質、などを知っていますので、安心してベガをやってもらえます。
シバラク先生役の西村さんは、わたし的には「勇者エクスカイザー」のパパさんの声になります。そうなのです、パパさんの声は子供たちを見守る優しさがあります。
銀河は「魔導王グランゾート」の主役大地くん、「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」のランドル役の松岡(洋子)さんにお願いしたいとなりました。
わたしは、ランドルのキャラと声推しだったので反対する理由はありませんでした。また、松岡さんの声だと、どんな銀河に仕上がるのか?が想像できるのです。
福田監督は、「魔動王グランゾート」の絵コンテ・演出を経験していますので、大地役の松岡さんの演技、声質がめちゃ銀河にあっていると感じたそうです。
では北斗は?
新人、中堅の声優さんのなかからオーディションでみつけよう!となりました。
オーディション用のサンプル声(ボイス)を集めることになるので、シナリオからセリフを抜粋し、原稿を作成して藤野さんに渡しました。それから各声優事務所に原稿を送り、数名の声優さんの声を集めます。
新人さんから、中堅まで数名の声が来ました。
当時は、カセットテープだった気がします。まだ、MP3音声データではなかったと思います。
数日後、藤野さん、福田監督、わたしの3名で、それぞれの声を聞いて決まったのが進藤(尚美)さんです。
初主役となりました。当時の進藤さんは、大阪から出てきたばかりだったかなと思います。
新人声優さんの北斗と中堅の声優さんの銀河ですので、とてもバランスが良いと感じました。
第1話のアフレコ日。
「新世紀GPXサイバーフォーミュラSIN」でも使っていた収録スタジオです、勝手知ったるスタジオなのでわたし自身に緊張はあまりなかったと思います。
いつものように、ブース内声優さんに監督、プロデューサーの挨拶があるのですが、基本は、藤野さんが進行してくださり、我々が自己紹介と挨拶、電童の内容のことを軽く話します。
そこで、作品のテーマ、物語のあらすじ、そして声優の皆さんにやって欲しいことなどは福田監督が話しますので、わたしは、電童はバンダイの玩具連動アニメであり、ターゲットなどのことを話したのだろうと思います。
主人公のひとり北斗役の進藤さんは、ど新人さんです。
銀河役の松岡さんとともに、センターに座ります。進藤さんは、レギュラーでさらに主役は初めてなので、色々松岡さんと三石さんたちにレクチャーを受けてアフレコを頑張っていたことを思い出します。
多分、レギュラーメンバーに、ど新人の声優さんは他にいなかった気がします。
わたしなどが分からない悩みなどあったんだろうな?って思います。
休憩時、アフレコ後に色々話したなかで、進藤さんが京都出身だと知ります。そして、ネイティブ京都の人間だと知り、これが、後の「舞-HiME」の静留役につながるのです。
銀河役の松岡さんは、元気よく、やんちゃでちょっと生意気な感じがうまく出ているキャラクターを演じてくれました。貴族的なランドルとは違うキャラですが、とても愛らしい小僧になっていたと思います。ちなみに、松岡さんには「舞-乙HiME」ではマリア先生を演じてもらっています。
ベガ(織絵)役の三石(琴乃)さん。多分、当時初のお母さん役だったのではないでしょうか?いまでは、のび太のママ役が有名ですね。
バイクは乗り回す、ムチはふるう、アクションもこなす、とんでもないお母さんのベガさん。
本来、電童の乗り手だったのが、超サプライズ自分の子供が乗ることになるわけで、母としては心配の極みですよね。いま考えても新しいお母さん像だったと思います。
アルテア役は、中田(和宏)さんです。第3話から登場した記憶があります。
わたしは、「星方武俠アウトロースター」で、敵側の兄弟の兄役ロンをやってもらっていたので、「お久しぶりです」と挨拶から始まります。
背が高くスマートな紳士です。
わたしより、少しだけ年上ですが、年齢が近いので、アフレコ現場で色々お話できたと思います。
実際、見た目以上に紳士でした。声はアダルトな落ち着いたいい声です。
また、その佇まいが素敵だと思いました。さらに真面目さが本人の持ち味だと思ったので、後の「出撃!マシンロボレスキュー」の長官。「アイドルマスターXENOGLOSSIA」でも長官をやってもらいました。なんだか、長官なのです。
アフレコ後に食事に行ったとき、色々会話のなか振り向きつつニコッとする笑顔がとても記憶に残っています。最後にお会いしたのが、2007年秋の「アイドルマスターXENOGLOSSIA」の打ち上げ?だったと思います。お元気かな?
あと、「GEAR戦士電童」は、声優さんが何役も担当するのがマストでした。
例えば、野島(健児)さんは、新人ではなかったですが中堅でもなかった、まだ20代中盤だったと思います。
味方と敵役「吉良国進、アブゾルート、機将G・アブゾルート、アルテア〈少年期〉、警備機獣」とメカも含めて色々なキャラを演じてもらっています。
一条(和矢)さんも、味方と敵役、コンピューター「草薙圭介、グルメイ、機将G・グルメイ、メテオ(コンピューター)、クリス・ウェルナー」と五役です。
でも記憶だと、他にも数名演じている気がします。
西村さんも、味方と敵とエリスのパパを演じています。
「螺旋城、渋谷長官、ボリス・ウィラメット」です。
同じく速水(奨)さんも、敵と味方の両キャラ「出雲源一、ガルファ皇帝、ゼロ」です。
実は、この速水さん演じる銀河のお父さん役は、海外出張が多く外国語まじりのおかしな喋りになってしまうなど、シナリオ時からめちゃくちゃ面白い人なのです。
速水さんがアフレコのテスト回がテンション高くめちゃくちゃ面白かった記憶があります。本番になると、福田監督の演出の指示、要望に合わせてやることになるし、当然笑わせる演技でなく本人は真面目なんだけどおかしなお父さんになるように演じることになります。昔、「伝説の勇者ダ・ガーン」のときに、主役ロボットのダ・ガーンで兼役はなかったのですが、ある日ある話数で敵キャラが飼っている小さいモンスターを演じたことがありましたが、めちゃくちゃノリノリで奇声を発していたことがいまでも思い出せます。多分、アドリブでやれるのが楽しかったのかな?と思ったりします。
と言うように、「GEAR戦士電童」のアフレコ現場の名物は何役も演じる!でした。
このような二役以上を担当してもらうのは、子供向けアニメには多いのです。
勇者シリーズでも時折ありました。
ちなみに、「出撃!マシンロボレスキュー」もこのやり方を踏襲しています。そこでは、北斗役の進藤さんも、エース役の他、寮母さんもやっています。
実は、この二役以上を演じてもらうのは、いくつかの理由があります。
・予算の関係で声優さんをたくさん呼べないため。
・セリフ数が少ないので、声優さんに二役三役やってもらってそれなりのセリフの分量にするため。
・色々な役を声を変えて演じることが勉強になるのでやりたいと言うためです。
なかでも一条さんは、たくさんの役をやっていたので、本当に楽しんで挑戦していました。声を変えて、演じ方も変えるなど、毎回終わったあとに、わたしに「大丈夫でした?」と聞いてきた記憶があります。
「はい、大丈夫です。バッチリですよ」と、返した記憶があります。
主人公である銀河と北斗であっても、松岡さん進藤さんも別役をやれるなら、やりたい!とねらっていましたが、さすがに、藤野音響監督はやらせませんでした。
毎回アフレコで思うのは、声優さんが、声という生命(魂)を与えてくれるなあって思うのです。アニメーターが絵を動かすことで、ひとつめの生命が吹き込まれます。
そして、声……が入って、それぞれのキャラクターがより深く、強く、個性を持って存在するのだと思うのです。
当時のアフレコ風景は、新人から中堅、ベテランがみんな一緒にブース内で、収録していきます。20人くらいが全員そろって、テスト2回、本番、抜きと言った流れで進みます。
新人は、ベテランの演技を見れますし、中堅・ベテランの方々は、新人さんにレクチャーをしたり、テクニックだけでなくアフレコの心得みたいなものが伝わっていくように見えました。
コロナ禍以降の現在のアフレコ風景は、ブース内に入れる人数は3~4人ずつ、何度かに分けて収録します。簡単に説明しますと、それぞれ単独のセリフを収録していくことになるので、掛け合い、会話などの相手の演技を聞いてリアクションすることで生まれる演技がやれないこともあるのです。
また、ブースにベテランと新人が一緒に入らないことが多いです。ですので、新人がベテランたちの背中を見れないと言いますか、仕事ぶりを見れないのは、損失だと思うのです。
コロナ禍時代は声優さんひとりずつ収録していたので、それよりはましになったと思っています。でも、昔とアフレコ風景が変わってしまったことに残念さを感じてしまうのです。
いつの日か、昔のようなやり方に戻るのかしら?
🔻ふるさとP写真録:今週の一枚

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古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。
1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』アソシエイトプロデューサーとして参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。
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