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記事: 第64回:『太陽の勇者ファイバード、不思議な事件がありました』

第64回:『太陽の勇者ファイバード、不思議な事件がありました』

「太陽の勇者ファイバード」の放送が始まり、がんばって制作を続け、最終回に向けてラストスパートをかけている頃だったと思うのですが、不思議な事件が起きました。

 

「勇者エクスカイザー」と違って、主人公の火鳥兄ちゃんが青年キャラクターになったためか、アニメ誌が取り扱ってくれる作品になったのです。

なんと女性ファンが生まれました。

 

正直、「勇者エクスカイザー」は、アニメ誌ではまったく取り扱われない作品でした。

アニメマニアが読むアニメ誌ですから、幼児向けのアニメが載らないのは仕方がないことです。

そんな中、「太陽の勇者ファイバード」では、なんとアニメ誌に描き下ろしイラストが載ることになりました。

制作現場では、珍しいことが起きたので、びっくりしていたのです。

 

最終回が近づいた頃だったでしょうか?最終回を迎えてからだったでしょうか?

細かい時期まで覚えていないのですが、不思議な事件が起きました。

 

「ハルカちゃんがいつも同じ服なので違う洋服を着せてください」と言った趣旨の手紙とともに、「服代に」とお金の入った封筒が届いたのです。

関係者一同、びっくりです。

確かに、女子キャラの天野ハルカは、各話で着替えることもなくメインのコスチュームだったのです。それを、可哀想と感じたファンが送ってきたのです。

だからと言っても、時期的にデザイン変更は無理ですし、正直現場のスタッフ全員が困ったことを思い出します。正直、お金をそのファンの方に返したいのですが、その方がどこにいるのか?が分からないので本当に弱ったものです。

 

さらに、放送終了してから、続編を作って欲しいと言った旨のはがき、封筒と言った手紙がたくさん届きました。

局やレコード会社、サンライズに届いたのです。

それが、数年続き通算200通を超える手紙となりました。

段ボール箱に入った手紙たちを、いまでも思い出します。

 

熱狂的なファンが生まれたのはとても嬉しいことではあります。

でも、行き過ぎに感じることは制作側として、どうすれば良いのか?悩みしかないです。

 

別作品ですが、びっしりと自分が考えた設定を書き込んだノートが何冊も送られてきたこともあります。プロデューサー、制作デスクがとても困っていました。

当時ですので、ノートに手書きの文字が書き込まれているので、その情熱は伝わるのですが、でも、やはり制作現場は困るんです。まず、簡単に捨てることが出来ませんし……。

 

現在のようにSNSがない時代ですから、ファンがクリエイターや各スタッフに思いを伝えるには、「手紙」だけが有効手段でした。

いまは、SNSとして、エックスやインスタグラムなどでファンとクリエイターやスタッフが近くなっているので、また、新たな事件があるのでしょうね。

わたしは、いま制作現場にいないので、なにが起きているのか?知りませんが、色々な意味でドキドキします。

 

ちなみに、当時、子供たちのリアクションはわたしたちの目に耳に届かないので、本当に楽しんでアニメを見てくれているのか?といつも考えていました。

だからこそ、玩具が売れていることをタカラさんから聞くと安心したものです。

わたしは、「勇者エクスカイザー」から「太陽の勇者ファイバード」と切り替わって、新しい玩具がデパートや玩具屋さんに並ぶと、こっそり見に行ってました。

 

きちんと子供たちが興味を持って、玩具を触ってくれているのか?

両親に欲しいと嘆願しているのか?

と、ちょっと離れた場所で見ているとても怪しいわたしがいました。

 

でも、子供たちは、興味があればサンプルに触って変形、合体させて遊びます。

興味がないとスルーです。

彼らには、忖度と言う言葉はありません。

とても辛辣だし、とてもリアルです。

だからこそ、子供向けのアニメ作りは楽しいのです。

 

 

話は変わり、クリエイターのことで思い出すことがあります。

「太陽の勇者ファイバード」は、基地からの発進がたくさんあります。

当然、各マシンの変形合体もあります。

これらの、絵コンテ、演出は、日高(政光)さんです。

オープニングテロップだと演出チーフと言う名称になっています。

 

日高さんは、「機甲戦記ドラグナー」「魔神英雄伝ワタル」「魔導王グランゾート」などの絵コンテ・演出をやっています。後に、「ポケットモンスター」の監督をやっています。

日高さんは、とてもとても真面目な方です。

「太陽の勇者ファイバード」のとある担当話数のシーンだったと思います。

主人公の火鳥兄ちゃんも真面目なキャラなのですが、そのシーンが真面目さ故にギャグになっているのです。

わたしは、それが、まるで日高さんそのままに見えてしまって、「う~むむ」と思いました。

 

そんな真面目な日高さんだからこそ、基地発進の絵コンテもきっちりと丁寧に描いており、カット数も多く尺も長いのです。

 

制作デスク1年生のわたしとしては、スケジュールを考えるとなるべくカット数は少なくしてもらって、尺も可能なら半分くらいが嬉しいのですが、日高さんはそこはきっちりと描くのです。

 

基地発進(影やハイライト、動画枚数も多い)、1分くらいあったフル尺は、初回から2回程度使ったら、どんどん短くなるのです。

あっという間に半分の尺となり、1クール(13話)も過ぎると、「バシューン」とジェット機が空に飛ぶカットだけになるのです。

 

さらに、基地発進は、主人公のファイヤージェットの他、中盤から登場のファイヤーシャトルが増えます。あと、バロンチームの発進もあるので、かなり発進シーンは作った記憶があります。

 

わたしは、編集時に切らないで残して欲しいと、思うのですが、当然本編が長いと発進が切られて行くのです。

 

当然、各ロボットたちの合体シーンも同様です。

わたしの勘違いでなければ、メインマシンの基地発進、メインロボの変形・合体、必殺技シーンを全て編集で合わせると。30分に近づく計算になると思います。

 

「勇者エクスカイザー」も、「太陽の勇者ファイバード」同様に、各シーンを合わせると20分以上になったと思いますし、変型合体、必殺技シーンをまとめたVHSを作った記憶があります。

それって何だったのか?タカラの販促用だったのか?詳しくは覚えていませんが、本編1話数分あると知って、心のなかで「良くぞ作った、みんなすごい!」と叫びましたよ。

 

そして、日高さんのことを書くと、とても残念なことを思い出します。

晩年病気をしていたと聞いていました。

そして、2022年にサンライズから訃報が入りました。

日高さんが帰らぬ人になったのです。

知った時、めちゃくちゃ悲しかったです。

わたしより1歳だけお兄さんなのですが、一緒に仕事をやった仲間が旅立つのは、本当に悲しいです。

 

わたしは、「太陽の勇者ファイバード」のことを考えると、日高さんの顔を思い出すのです。

バイクが好きだった日高さん。

人懐っこいあの笑顔が忘れられません。

そして、真面目に絵コンテを描いて、真面目な作画打ち合わせ、ダジャレなども真面目に発言するそんな記憶があります。

新人の1年生の制作デスクのわたしの話を「うんうん、分かった」と聞いてくれたものです。

「ありがとうございます」

 

 

PS

「いのまたむつみ画集MIA」が626日に発売、わたしの手元にも届きました。

そう、いのまたさんも天におります。

 

わたしは、この「ふるさとPアニメ道」では、アニメ業界にしっかりと足跡を残したクリエイターや制作マンなど、スポットライトが当たらないスタッフなども紹介していければ良いなあと思っています。

 

 

 

古里尚丈(ふるさとなおたけ)

196153日生まれ。青森県出身。

1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。

20112月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』制作統括として参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。

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