第69回:『舞-乙HiME、アリカとニナたち新キャラの声優オーディションについて』
「舞-HiME」は、全てのキャラクターの声優さんを選ぶのは、かなり苦労しました。でも、どんどん決まっていくことで、フィルムの出来上がりが見えて(聞こえて)くるので楽しくもありました。
では、「舞-乙HiME」では、どんな思い出があるのか?です。
兎にも角にも「舞-HiME」に出ているキャラクターを担当している声優さんのスケジュールの確保です。
めちゃくちゃ大切なのは、アフレコスケジュールです。
来るアフレコのタイミングに合わせて、全員揃えることが出来るのか?なのです。
「舞-HiME」同様、音響監督のスケジュールから決めて行くことになります。
音響監督に合わせて、◯月の◯曜日の◯時からと言う仮押さえのスケジュールが決まり、それに合わせて、新規のキャラクターの声優さん選びになります。
などのスケジュールが進行するなかで、並行してアリカ、ニナ、エルスティン、トモエ、イリーナ、マリア、セルゲイなどの声優さんを誰にするのか?候補を出したり、オーディションしたりと決めて行くことになります。
このなかでも、主人公のアリカとニナはとても大切な存在です。
3人目の主人公のマシロ役は「舞-HiME」時の真白役のゆかなさんですから、ひとつの基準となります。
つまり、3人の声バランスとしてゆかなさんの声ありきであとふたりの声質を考えます。
当然、演技などがどこまでやれるのか?も大切ですが、まずは、3人の声質だと考えました。
プロデューサーサイドから、オーディションに入れて欲しい声優さんの名前は出したのか?の記憶がありません。
でも、国崎(久徳)プロデューサーが小清水(亜美)さんの名前を出した気もします。
他にも、当時の新人声優さんで個性的な声を持った方の名前を1~2名出した気もしますが、ちょっと忘れています。
音響会社の方で、アリカ役5~6名、ニナ役で5~6名の声優さんがオーディション参加していたように記憶しています。もしかすると、10名近くいたのかも知れません。
頂いた音声データを聞いて、アリカ役には菊地(美香)さんしかいないと思いました。
わたしにとってダントツにアリカでした。
そして、アリカとマシロが決まると、ニナに欲しい声質がより明確になってきます。
アリカの次にニナのそれぞれの声を聴きました。
そこに、小清水さんの声がバチッとハマっていました。
ご本人はとても元気で明るい人柄なのですが、声質から感じるのは何だかどこか「不幸少女」感があるのです。本当、勝手なこと書いてごめんなさい。
でもそれが、小清水さんの持つ個性のひとつになるような気がしました。
実際、ニナは難しい役どころだと思っていました。
孤児で、自分をみつけ手を差し出したセルゲイを一途に愛し、また、いい子で居続けるのが生きがいのような女の子と言うキャラクターは、相当に変わっていると思うのです。
そんな気持ちを小清水さんが理解し演技出来るのか?です。
当時、色々と悩みながら演じていたような気がしてなりません。
ふと思い出すと、「舞-乙HiME」のオーディションの前、日本青年館でやった声優さんのライブに来ませんか?とランティスの井上(俊次)さんに声をかけてもらいました。
野川さくらさんのライブだった気がしますが、でも、はっきりと覚えていません。
観終わった後に現地にいたバンダイビジュアルの宣伝プロデューサーの轟(豊太)さんから紹介を受けたのが、小清水さん本人でした。まだ18歳とか、そんなタイミングだったと思います。
ですので、小清水さんとは一度だけお会いしていましたが、でも、演技幅とか声質とかが分かるほどの時間ではなく5分程度話しただけでした。
だから、きちんとお話をするのは、第1話のアフレコ以降、そして、エンディング主題歌を歌った時に収録スタジオで空き時間にお話し出来たことは後のイベントやネットラジオ、ネットTVなどの企画に反映させるなど大変良かったです。。
アリカ役の菊地美香さん、当時美香ちゃんと呼んでいたので、ここでも美香ちゃんで(あえて、名字でなく名前で書きます)。
美香ちゃんに初めて出会うのは、予告?告知?のためのナレーション録りの時になります。
アオイスタジオに向かうなか、わたしの前を、小柄な女子ともうひとりが並んで歩いていました。そのふたりを追い越すわたし。
そして、先に到着したわたしがスタジオのアフレコブースで待っていましたら、先程追い越したふたりが来るではありませんか?
元気に「おはようございます」と挨拶。
さらに「夢宮アリカをやります、菊地美香と言います」。
わたしは、その元気な声の声優さんを見るのですが、……。
あれれ?
なんと、わたしの目の前にアリカがいる!と思ったのです。
笑顔の美香ちゃんは、アリカそのものに見えたのです。
台本原稿を渡して、収録となります。
まだ、本編のアフレコが始まる前なので、わたしも挨拶をして自己紹介です。
そこから軽く「舞-乙HiME」の物語を伝えて、渡した原稿の意味や方向性などを話して、テスト収録です。
スピーカーから聞こえる声を聞いたわたし、音響スタッフで美香ちゃんにお願いする内容を整理して伝えて、2回目のテスト、本番と収録していきます。
まずは声質だけでアリカだ!と思えるのは得だなって思いました。
少しずつ演技が加わり、よりアリカになっていきます。
どんなアリカを見ることが出来るのか?本編のアフレコが始まるのがとても楽しみになりました。
エルスティン役は、栗林(みな実)さんにお願いしたいと言うことを国崎さんに相談しそれは有りだね、と言うことで進めました。
「舞-HiME」では、オープニング主題歌担当として、本編のキャラクターを演じることがありませんでした。
わたしは、「舞-HiME」の次を作ることが出来るなら、栗林さんを入れたいと考えていました。エルスティンの薄幸の美少女にハマるのか?が分からないでいましたが、「舞-HiME」の主題歌を歌ってもらった時に、声質に「切なさ成分」が入っていると感じていたので、エルスティンにハマる気がしたのです。
トモエ役は、田中(理恵)さん。「機動戦士ガンダムSEED」のラクスの声を聞いて、順当なるヒロイン声が良いなと考えました。
そのヒロイン声を持った田中さんがラスト敵側に回ると言うギャップが良いのではと思ったのです。
イリーナ役は、比嘉(久美子)さん。「出撃!マシンロボレスキュー」の鈴ちゃんと言う活発な女の子とショウくんと言うお調子者な男の子の二役をやってもらいました。
少しハスキーボイスだと思うのですが、それがアリカたちときちんと違いを生み出せるのではないかと思い、お願いしました。
マリア役の松岡(洋子)さんは、わたしにとって「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」のランドルです。そして、「GEAR戦士電童」の主役のひとり銀河くんです。
「ゲゲゲの鬼太郎」の鬼太郎も演っています。
わたしの中のマリアさんは、宝塚の男役のような雰囲気で若い頃はひたすら格好良い凛とした佇まいを持った男装の麗人風味だと思っているのです。
だからこそ、正統派少年主人公を演じてきた松岡さんに演ってもらいたかったのです。
セルゲイ役に小西(克幸)さん。小西さんは、音響監督からの提案だったか、国崎プロデューサーからだったか、あるいは監督などスタッフ側の提案だったのか?覚えていないのです。ただ、名前が出た時に、わたしはすでに、「星方武俠アウトロースター」「星方天使エンジェルリンクス」でデビューしてまだ2~3年だった小西さんを知っていましたので、人柄や声質などは分かっていたので、問題なしでした。スケジュールが合って参加してもらえたのでとても嬉しかったです。
しかし、改めて考えると、「舞-HiME」に出演した声優さんたちが全員「舞-乙HiME」にも参加出来たこと、新しく参加することになった声優さんたち運良くスケジュールが取れたことは奇跡だと思っています。
声優さんの話は今回序盤です。まだ色々あるのでどこかで書きますね。

古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。
1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』制作統括として参加。現在、ゲーム等参加、新企画を準備中。
コメントを書く
このサイトはhCaptchaによって保護されており、hCaptchaプライバシーポリシーおよび利用規約が適用されます。