記事: 第76回:『サイバーフォーミュラSINが動き出しました』
第76回:『サイバーフォーミュラSINが動き出しました』
「新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA(以降サイバーSAGA)」の最終巻第8巻を発売したのが、1997年7月2日です。
そして、「新世紀GPXサイバーフォーミュラSIN(以降サイバーSIN)」の第1巻の発売が、1998年12月21日となりました。
この間、おおよそ1年半。
わたしは、1998年1月からテレビ放送の「星方武俠アウトロースター」の制作も行っていましたので、2作の制作ラインを動かすこととなります。
思い起こすとプロデューサーになったのが1995年ですので、まだ3年くらいの新人プロデューサーが2本のラインを持って走るのはちょっと苦しい時代でもありました。
OVA(オリジナルビデオアニメーション)である「サイバーSIN」の全5巻それぞれの制作スケジュールは多めにいただきました。
さらに、「サイバーSIN」を5本にした理由があります。
普通のテレビシリーズのよう、作画班を5班用意して順繰りに描いてもらうのは、クオリティを考えると無理だと言うことを「サイバーSAGA」の制作で身に染みて理解しました。
だからこそ、何度も制作スケジュールのこと制作デスクと話し合いました。
念頭に置いたのは、基本同スタッフで1本1本丁寧に作って行くこと!です。
発売スケジュールは、毎月発売はやめて、ある程度の時間をいただくことにしました。
また、同じメンバーで作っていける話数も考えて、全5巻とさせてもらいました。
福田(己津央)監督に、諸々の理由を話し全5巻で行きたいことを話し、構成を考えてもらうことにしました。
発売スケジュールは、下記になります。
いまだから書けますが、実際は想定より遅れた話数がありました。
1巻「不敗神話」 1998年12月21日
2巻「復活の刻」 1999年2月21日
3巻「凰呀の叫び」 1999年7月7日
4巻「勝者の条件」 1999年9月16日
5巻「全ては時の中に…」 2000年3月17日
とにかく、「サイバーSAGA」の8話数を作ることでの成功と失敗を、自分なりに出して、そこからどう制作すれば良いのか?
どう告知宣伝すれば良いのか?
どんなグッズ(商品)展開をするのが良いのか?
どんなコミカライズなどの展開が妥当なのか?
あと、話数と話数においてそれなりに発売が空く場合もあるので、その間にお客さまに待ってもらうにあたりどんな情報を発信すると良いのか?など、色々考えました。
さらに、プロデューサーの仕事って何だろう?と何度も考えました。
プロデューサー業を3年ほど経験し、色々見えることもあるし、まだまだ未熟な面もあります。
正直、いま現在でもわたしは、プロデューサーって何?と思うし、わたしなりの答えが見つかっていない部分があります。いつも、勉強だし、常に模索ですね。
また、制作途中、バップさんからひとつお願いが来ました。
DVDを2000年12月~2001年2月に発売すると言うのです。
そうなのです、「サイバーSAGA・SIN」の時代は、まだVHSとLD(レーザーディスク)の発売であり、DVDは発売していなかったのです。
ちなみに、DVD自体は2006年あたりから出てきたようです。そして、2000年3月に発売したゲーム機、PlayStation 2にDVD視聴機能が搭載され、ここから普及に加速がかかりましたね。
そんな流れを受けて、満を持してDVDを発売したいと言う話になりました。
「サイバーSIN」の第1巻と第2巻を収録するDVD第1巻。
第3巻と第4巻を収録するDVD第2巻、そして、第5巻のみの収録のDVD第5巻になります。
そのDVD第5巻(2001年2月発売)に特典として新作アニメを足したいとなりました。
いわゆるVHS&LD第5巻に、新作映像をプラスしたDVDを発売決定です。
福田監督にそのお話をしました。若干尻切れトンボとなった第5巻を改めて作れるならやると言うことになりました。と言うことで、新作エンディングの制作開始となりました。
実際の映像は、ハヤト、あすか、加賀たちのその後を描いています。
ハヤトとあすかの結婚式、加賀の先輩のお墓参りなど新しく絵コンテ、作画したのです。
14歳でレーサーデビューしたハヤトが艱難辛苦、王者となり、あすかと結婚式まで描くとは?
このような描き方をするアニメは多くはないです。
わたし、「サイバーSAGA・SIN」において、主人公や出てくるキャラクターがそれぞれきちんと年齢を重ねていくと言った、とても珍しいアニメだと思って参加、制作していました。
2000年~2001年当時、わたしは「GEAR戦士電童(2000年10月~2001年6月放送)」を制作していました。
また、「GEAR戦士電童」のメインスタッフは、「サイバーSIN」とほぼ同じスタッフですから、特典映像の制作としても短い尺になってしまいました。
しかし、いま考えると、制作現場としてかなり無理をしているなと思います。
あの頃、わたしのスタジオは常に2ラインの作品が走っていました。
クリエイター不足はずっと続いています。
わたしが、アニメ業界に入った1980年代でも、やはりアニメーターは不足していました。
動画、仕上げは海外に出していましたし……。
わたしがアニメ業界に約44年いますが、クリエイター不足の状況はあまり変わっていないと思います。昔は、テレビ放送している作品数は少ないですが、でも、クリエイターも少なかったし。
いまは、作品数がすごいことになっていて、それで考えると圧倒的にクリエイターが足りていないんです。
今後、クリエイターが増えるのか?
それとも、生成AIなど色々なツールが補強して行くのか?
また、「サイバーSIN」のようなアニメでは、マシンは手描きでなく、よりCGになって行くと思います。
そうなると、CGクリエイターもどんどん欲しくなりますので、手描きのアニメーターさん、そしてCGクリエイターさん。その両方がやれるクリエイターさんと増えて行くことを願うばかりです。
日本のアニメーションは、手描きのアニメとして特殊な環境にあるし、ある意味ガラパゴス化していると思いますが、でも、わたしはこのガラパゴス化こそが日本の良さではないかな?と思うのです。
でも、昔のように鎖国に時代でもなく開かれていると思いますし、またインターネットが世界をより狭くし、情報共有しています。
そんないまの時代だからこその日本のアニメ文化が生まれ、育つ気がしています
テレビアニメの放送が始まったのが、1962年の「鉄腕アトム」です。
そこから63年経ちました。
半世紀以上経った現在、それこそ新しいアニメ環境が来てもおかしくない?って勝手ながら思っているわたしです。
さて、次回から「サイバーSIN」の制作に入ったことで思い出せることを書きます。
いま、頭のなかにふとよぎったのは、オープニング主題歌のことです。
「LAZY」と言うグループの作曲・編曲・歌の「Pray」、これは収録に立ち会っていますので、色々書きたいと思います。
大人っぽくて良い曲だなって、聴いたときのことを思い出します。

古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』制作統括として参加。
現在、アニメ、漫画、小説等、新企画を準備中。
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