記事: 第85話『サイバーフォーミュラSIN、サイバー総括?(後編)』
第85話『サイバーフォーミュラSIN、サイバー総括?(後編)』
前回、第84話につづき、後編になります。
わたしが考える「サイバーフォーミュラ」の『魅力』及び『ファン』について書いてみます。
まず、『オリジナルアニメ』であること。これはサンライズで育った人間であれば、これこそマストです。オリジナルアニメを作ると言うことが普通のことなのです。
漫画や小説は、ラストまで読んでしまうと、先を知ることになります。
オリジナルアニメは、放送(配信)されて、最終回まで進まないと先が分かりません。
先が分からないと言うのは、ドキドキや次の話数を想像することで楽しめるのです。
そして、アニメーション(動く、色が着いている、声など音がある)に対して最適化することが可能です。
ただ、昨今、先が分からないのは怖いので嫌だと言う若者がいます。だから、原作物が安心して観ることできるのが好きなんです、と言う声も聞きます。
より深く聞いてみると、社会が先行き不透明で怖いのにアニメまでが同様に怖いのは見たくないんだ!と言うのが理由です。確かに、わたしの高校時代、20代の頃はバブルがはじける前後で明るい未来しかないような日本でした。そんな時代を経験しているわたしは、この先の怖さは薄かったのかも知れませんね。
バブルがはじけた1990年代以降は、日本の景気は下がる一方ですし、リーマンショック、コロナ禍など見えない恐怖はずっと続いています。なるほどなって、思います。
わたし自身、先が分からない物語、自分の想像をはるかに飛び越えてより面白いアニメを見るのって楽しいと感じるのです。でも、考え方によって逆になるのも理解できます。
次は、『世界観が分かりやすい』。
SFではありますが、唐突だったり難しいものではない、自分たちの目の前の環境の延長線にある。見ることですぐに伝わることはメリットです。
レースバトル(競争)として、勝ち負けがあり見てドキドキ出来る。
しかし、戦争アニメのような多くの人が死ぬことがないので、見ていて安心がある。
これは、シリーズ構成の両澤(千晶)さんが話していたので、聞いているわたしもすごい納得しました。
レースマシンが素直にカッコいい。
レースシーンがとても痺れるカッコ良さがあります。
河森(正治)さんのデザインのマシンがカッコいいだけでなくリアリティもある、そして、バトルの見せ方については、サンライズ特有のスピーディーさがあります。
また、勇者シリーズなどのロボットバトルでもカッコいい話数を担当していた福田監督のコンテと演出力に起因します。
若いドライバーたちの『青春物語』である。
さらに、『スポーツ根性物(スポ根)』の流れを組んでいる物語。
このふたつは、物語としてメリットだらけです。
日本人は、スポ根好きだと思うのです。
古くからは、「巨人の星」「あしたのジョー」「ドカベン」「キャプテン」「プレイボール」「アタックNo.1」「エースをねらえ!」「YAWARA!」「タッチ」「キャプテン翼」「はじめの一歩」「スラムダンク」「テニスの王子様」「黒子のバスケ」「弱虫ペダル」などなど枚挙にいとまがないです。本当にたくさんあり、漫画からアニメ化としてヒット作も多いです。
さらに、スポーツには、必ず『競争』があります。
この「競争」には、勝ち負けがあってそこに我々応援している人間は、一喜一憂します。
これって、本能に根ざしたものなのでしょうか?
スポーツ物には、ボクシングなどの1対1の対戦物と野球・サッカーなどのようにグループ物の対戦と大別されます。
1対1であっても、たくさんの選手がいるし先輩、後輩、友が表現できます。さらに、ライバルが登場するので人間関係を深めることで物語に厚みが増します。
グループ物は、味方側に9人だったり、11人いるので、そこにキャラクターの関係を描くことができ、それにライバルも登場になるので、様々な人間関係を描くことになり、読者・視聴者は自分の好きなキャラクターをみつけだして応援できることになります。
これが、いまだと「推し」となるのでしょう。
「サイバーフォーミュラ」は、マシンに乗ることになりますが、でも、根底に流れているものは「競争」でもあり、目標に向かってどうやって目標を超えるのか?ライバルもいますが、最終的には自分にどれだけ勝つことができるのか?など、どこから考えても、やはりスポーツと同義だと思うのです。つまり、スポーツ物の側面を持っています。
さらに、大人数のキャラクターがおり、人死のないバトル、つまり「競争」があるのが、ファンを得られる大きな要素だと考えるのです。
サンライズの得意な、巨大ロボット物は、どうしても戦争モチーフの内容になりがちです。それは、常に死が隣り合わせにあり、それがヒリヒリとした緊張感もあって、深い物語を描くことができますが、でも、ある意味安心して観ることができる「サイバーフォーミュラ」は、それがメリットかも知れません。
実際は、ほんの少しの失敗が死を招くようなスピードのなかレースをしているので、良く考えと怖いのですが、でもやはり戦争物ではない安心感がありますよね。
実は、このことは、シリーズ構成の両澤さんと色々お話したときに、言われたことでもあるのです。そして、「だからわたし、新世紀GPXサイバーフォーミュラのシナリオを書くのが本当に好きなの」と言われました。わたしも、両澤さんともう一度「サイバー」で一緒に仕事したかった、です。
『キャラクターが個性的で、魅力的』。
その個性的で魅力的なキャラクターがたくさん登場するのもとてもメリットです。
これは、1970年代後半から1980年は単独アイドルが大活躍した時代でした。
ですが、1990年に入ってからは、徐々に単独アイドルが減っていきます、そして1997年から始まった「モーニング娘。」の活躍が始まります。
2005年から始まった「AKB」の登場が、単独アイドルからグループアイドルとして大人数になりました。アニメも同様で、1990年後半からヒロインが多数出てくるようになり、2004年「舞-HiME」も多数ヒロインの法則に則って企画制作しています。
男子、男性5人グループの少年たちが出るロボットアニメはありました。でも、1999年後半から始まったグループアイドルの台頭を考えると、この大人数のキャラクターが揃っていた「サイバー」には、未来に向けての先取りがあったのだと思います。
さらに視聴者は「サイバーフォーミュラ」に登場する『キャラクターに感情移入』しやすいと思うのです。その理由は何でしょうか?
それは、キャラクターに人間味があるからだと思うのです。物語のなかにしっかりと生きているのです。
それは、作り手スタッフたちにノウハウがあって、センス良いからではないかなと思うのです。テレビシリーズからOVAと、福田(己津央)監督、シリーズ構成、各ライターさんたちがオリジナルアニメ作りのテクニックが高く、だからこそ魅力的キャラクターを生み出し、物語を提案出来たのかなと思ったりします。
絵作りとしてオリジナルのデザインを生み出せる、いのまた(むつみ)さん参加のキャラクターデザイン。瞳が大きく、スター性が高く温かみのあるメジャー感たっぷり、気品と華のある陽のデザインは非常に重要かつ効果的だったと思います。
吉松(孝博)さんのアニメ用のデザインも陽のデザインだと思いますので、これもとても重要ポイントだと思います。
あと、「サイバーフォーミュラ」は、CDドラマがとても多く企画され、発売しています。
CDには、絵がありません。でも、世界観、キャラクターの魅力がしっかり構築されているからこそ、ファンに訴求できるのだと思うのです。
ここで考えたのは『声優のちから』です。
いわゆる「声」のちからです。
昨年の「サイバーSAGA」の原稿でも書いたのですが、当時の新人さんから中堅の声優がそろっているのが、テレビシリーズ「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」です。
新条役の緑川(光)さんは、後に「新機動戦士ガンダムW」の主人公ヒイロです。加賀役の関(俊彦)さんはデュオですから。
人気声優さんがたくさん出演していたことも大きな要因だと思います。
時間が経ったいま、実験・観察、それら分析による検証することができました。そこで、自分なりの仮説が実証されたり、修正することで上記のようなことを考えました。
わたしは、「新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA」から新人プロデューサー(33歳)を経験出来たので、本当に良かったと思います。
このブログを読んでくださっている読者の皆さんも是非、仮説を立てて、実験・観察を行い、時間を経て自分なりの分析をして、なんらかの検証、答えを導き出して「当たった、外れた」と遊びのように日々の暮らしのなかに入れ込んでみると「見るちから」、「考えるちから」、「想像力」など磨かれ一石二鳥になるのではないかな?と思います。
わたしは、若い頃に、新車が発売されると決まったらその車の写真を見て、これは月に何台売れるのか?第何位になるのか?を考えて、車の本を毎月読んでいました。
当たった外れた!と一喜一憂した記憶があります。
とにかく売れたら、売れた理由を考えて、売れないとその理由を考えて、遊んでおりました。
ただ、これは自分の趣味で判断しているので、世の中のお客さんとのズレがあると、超外れるんです。そうなると世の中のお客さんと自分の感性、感覚の違いを冷静に比べて見直すのも面白かったです。
わたしは、「新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA」から新人プロデューサー(33歳)として参加したことで、色々学ぶことができて本当に良かったと思います。
一番得たことは、福田監督と両澤さんと一緒に仕事をしたことで「バイブル」をいただいたと思っています。キャラクター原案いのまたさん、マシンデザイン河森さんとの出会い。
キャラクターデザイン久行(宏和)さん、メカ作監重田(智)さん、美術監督の池田(繁美)さん。音楽プロデューサーの藤田(昭彦)さん、井上(俊次)さんに会えたことも宝です。
色々な方が「人が財産」と言いますが、その通りです。
人とのつながりが、将来の自分を作るのだと思います。
と、言うか、令和になったいまでも、つながっているのが福田監督だし、です。
いままで出会った方々、さらに、いまもお付き合いのある方々、さらに、新しい方々との出会いを楽しみにして前に進みたいと思うのです。

古里尚丈(ふるさとなおたけ)
1961年5月3日生まれ。青森県出身。
1982年日本アニメーションに制作進行として入社。1985年スタジオ・ジブリ『天空の城ラピュタ』制作進行。1987年サンライズ入社『ミスター味っ子』『勇者シリーズ』等、制作進行・設定制作・制作デスク・APを務め『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』からプロデューサー就任。『星方武俠アウトロースター』『GEAR戦士電童』『出撃!マシンロボレスキュー』『舞-HiME』『舞-乙HiME』他、オリジナルアニメーションを14作企画制作。
2011年2月企画会社、株式会社おっどあいくりえいてぃぶを設立。『ファイ・ブレイン~神のパズル』や『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』で企画・プロデューサー。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』企画協力、『グレンダイザーU』アソシエイトプロデューサーとして参加。現在、漫画原作、新企画を準備中。



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